第三章:秋(九月・出世の石段祭りと、魂を揺さぶる焔)

あの傾斜約四十度、壁のように立ちはだかる八十六段の『出世の石段』を、重い御神輿を担いだ男たちが威勢の良い掛け声とともに一段ずつ、文字通り命がけで担ぎ上げる――。これ以上ないほどの圧倒的な熱量と「ガツン」とした男気が炸裂するお祭りです。
この九月の凄まじい熱気と、祭りの興奮のなかで4人のプロとしての矜持と恋の焔が最高潮に達する、【第三章:秋(九月・出世の石段祭りと、魂を揺さぶる焔)】の本格短編ストーリー(小説版)を書き下ろしました。どうぞお楽しみください!
第1章:絶壁を上る神輿と、九月の狂熱
九月中旬の港区は、まだ夏の終わりの厳しい残暑がビル風に混ざり、肌を容赦なく焦がしていた。しかし、愛宕神社の麓に集まった人々の放つ狂熱は、その気候さえも完全に置き去りにしていた。
この年は、数年に一度開催される愛宕神社最大の盛儀「出世の石段祭り」。
目の前に立ちはだかるのは、全八十六段、傾斜約四十度のあの絶壁だ。下から見上げるだけでも足がすくむその男坂を、重厚な御神輿を肩に担いだ男たちが、「ソイヤ! ソイヤ!」という地を這うような地鳴りのごとき掛け声とともに、一段ずつ、一段ずつせり上がっていく。
飛び散る汗、男たちの咆哮、そして揺れる神輿の金色の飾り。大都会の真ん中で繰り広げられる命がけの神事に、参拝客の興奮は最高潮に達していた。
「す、すごい迫力……! 先輩、これ、ただ綺麗に撮るだけじゃ男たちの魂が画面から溢れちゃいます! 私、神輿が上がる瞬間の、一段ごとに命を削るようなローアングル、ギリギリまで攻めて押さえます!」
チーコは首から下げたミラーレスカメラのグリップを指が白くなるほど強く握りしめ、かつてないほど鋭く、野生的なプロの輝きを瞳に宿して叫んだ。
「チーコ、絶対に無茶はするなよ! 興奮した群衆に巻き込まれて階段から落ちたら、本当に命に関わる。撮影ポジションの死守は俺がジンバルでやる。お前は俺の身体の影から、一瞬の隙も逃さずにシャッターを切れ!」
蒼井が愛用のシネマカメラをホールドしながら、大歓声に負けない大声で指示を出す。仕事の厳しさを知るプロとしての冷徹な判断、けれどその眼差しには、チーコを絶対に傷つけさせないという強固な決意が宿っていた。
「了解です! 先輩、私の背中、ガチッと支えててくださいね!」
すぅ、と息を吸い込んだ直後、チーコの「ゾーン」が最高出力で覚醒した。
――カシャ、カシャ、カシャ、カシャ!
神輿が一段上がるたびに、地響きとともに熱風が二人を襲う。けれどチーコの指先は、まるで感覚が身体の一部になったかのように滑らかにダイヤルを回し、男たちの盛り上がる筋肉、滴る汗、そして背景にそびえ立つ虎ノ門のビル群を、魂が震えるような完璧な構図で切り取っていく。
蒼井はチーコのカメラバッグを片手でガチッと引き寄せ、自分の身体を盾にして彼女を群衆から守りながら、その凜とした、美しくも猛々しい横顔を極限まで近くで捉え続けた。
(……心臓が、うるさすぎる。祭りの熱気のせいじゃねえ。こいつの限界を恐れない生き様に、俺の魂ごと持っていかれそうなんだ――)
第2章:魂の頂上と、ガツンと響く誓い
そして、ついに御神輿が最後の一段を上り詰め、山頂の境内へと滑り込んだ瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が愛宕山を包み込んだ。
「ふはぁぁ……っ! 撮れました、先輩! 出世の石段を制した、男たちの本物の焔(ほむら)です!」
撮影を終え、いつもの太陽のような笑顔に戻ったチーコが、誇らしそうに液晶画面を見せてくる。そこには、ただの記録写真ではない、見た者の人生の運命をガツンと変えてしまうような、圧倒的なパワーを持った絵が並んでいた。
「ああ、文句なしに世界一の絵だ。……チーコ、お前がこれだけの魂を賭けてシャッターを切るなら、俺も一人の男として、お前に生涯の魂を賭ける」
蒼井はチーコのカメラを持つ両手を、祭りの熱気が残る「火産霊命(ほむすびのみこと)」の社殿の前で、ガツンと力強く握りしめた。
「え……っ、先輩?」
「仕事のパートナーなんていう便利な言葉で、お前をごまかすのはもう完全にやめだ。お前が絶壁の下から俺を支えるって言うなら、俺はお前のこれからの人生の坂道、どんなに険しくても全部俺の力で引っ張り上げてやる。俺の隣を歩く、たった一人の女性として、ずっと俺の隣にいろ。……大覚悟、しとけよ」
「先輩……っ! はい、はい……っ! 最初から、一生ついていく大覚悟です!」
至近距離で重なる視線。祭りの狂熱以上に、胸の奥からカッと熱いぬくもりが溢れ出し、チーコの瞳から幸せの涙がぽろぽろとこぼれ落ちていった。
第3章:人生の神輿と、丸眼鏡の温度
その頃、山頂の少し奥にある「児の水(ちごのみず)池」のほとりでは、ヤヨイが佐久間から手渡された冷たいお茶を飲みながら、激しい呼吸を整えていた。
「はぁ……はぁ……、佐久間君、本当にお疲れ様。このお祭りの熱気と移動ルートの確保、あなたがいなかったら私、人混みに流されて言葉を失うところだったわ……。本当に頼もしいわね」
柔らかい秋物のワンピースの裾を少し揺らしながら、ヤヨイが丸眼鏡の位置を細い指先で直した。
「ヤヨイさん、お疲れ様です。出世の石段祭りの歴史、そして神輿が一段ずつ上る際の安全確保データをすべてノートに補足してあります」
二十六歳の佐久間学は、黒髪短髪の落ち着いた佇まいで、いつものカーキ色のジャケットの襟を正し、ヤヨイの丸眼鏡越しに見つめる瞳を真っ直ぐに射抜いた。
「それと、ヤヨイさん。僕は今日、あの絶壁を上る神輿を見て確信しました。これからの人生という名の重い神輿も、僕があなたと一緒に担ぎます。ヤヨイさんの紡ぐ美しい言葉の、一番のプロデューサーになる覚悟はもう揺るぎません。仕事でも、生涯のパートナーとしても、僕があなたを絶対に引き上げ、幸せにします。僕を、あなたの生涯の主役にしてください」
「……っ、もう! 佐久間君はいつも、こういう大一番でズルいくらいの直球なんだから……」
寡黙な佐久間が口にした、不器用で、けれど一切の濁りのない情熱的な言葉。ヤヨイは驚きに丸眼鏡の奥の瞳を潤ませ、それから、長い黒髪を耳にかけながら、最高に愛おしそうに微笑んだ。池の中を優しく泳ぐ錦鯉や、木陰でのんびり毛繕いをしている白い看板猫たちが、二人の新しい絆の結実を静かに祝福しているようだった。
「(大興奮の小声で)まゆみさん、見た!? 出世の石段祭り、男たちの熱気もすごかったけど、先輩たちの恋の焔がガツンと爆発して、もう境内が甘すぎて溶けちゃいそうだよ!」
「(大興奮の小声で)ね! 蒼井先輩の『魂を賭ける』発言も、佐久間さんの『人生の神輿を一緒に担ぐ』発言も男前すぎて心臓が足りないっ! この熱い余韻日記、SNSのドラフトに過去最高熱量で保存しちゃおう!」
新人ADの近藤とまゆみも、先輩たちの熱いプロとしてのプライドと、ガツンと深まった絆を誇らしそうにノートに書き留めていた。
愛宕の頂上から広がる九月の夕空を見上げながら、チームケロはそれぞれの胸に消えない熱い焔を宿し、次なるハッピーエンドの完成へと、うきうきとした足取りで向かっていくのだった。
皆さんこんにちは!ADの近藤とまゆみです!
愛宕神社編の第三章、今回は数年に一度開催される大興奮の伝統行事「出世の石段祭り」にスポットを当ててお届けしました。
お神輿丸。
あの全86段、傾斜約40度の絶壁を、重い御神輿を担いだ男たちが命がけで一段ずつ上っていく姿は、言葉を失うほどの大迫力で、魂が震えるような感動をいただきました。
そんな熱気のなか、チーコ先輩が群衆のギリギリを攻めて「ゾーン」に入って撮影する姿は痺れるほど格好よかったのですが、撮影終了後に火の神様の前で、蒼井先輩がチーコ先輩の手をガツンと握りしめて「お前に生涯の魂を賭ける、ずっと俺の隣にいろ」と言い放った瞬間、私たちADコンビ、後ろで悶絶して大号泣してしまいました……!
さらに、佐久間さんの「人生の神輿も僕が一緒に担ぎます」という男らしい直球プロポーズ(!?)にも胸キュンが止まりませんでした!
チームケロの絆は、この出世の石段祭りでさらに強く、熱く結ばれました!
次回は、愛宕神社編のいよいよフィナーレとなる、冬の章をお届けします。
また新しい熱いドラマをお届けしますので、ぜひ楽しみに待っていてくださいね!
(AD:近藤・まゆみ)