東京十社群像譚『江戸の残り香、未来のノート』芝大神宮編

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第二章:芝大神宮(大門の風と、千木筥に響く強運の誓い)

第1章:大門のビル群と、関東のお伊勢さまの静寂

佐久間とやよい、芝大神宮、参道
佐久間とやよい、芝大神宮、参道

五月中旬のうららかな午後。ビル群の窓ガラスが初夏の太陽を眩しく反射させる港区・芝大門。
都営大江戸線の大門駅の階段を上がり、近代的なオフィス街を抜けると、突如として目の前に現れるのが「関東のお伊勢さま」と称される芝大神宮の巨大な白い鳥居だった。

『東京十社めぐり』の第二弾取材として、チームケロのプロデューサー・佐久間学と、ライター・ヤヨイの2人は、大鳥居を潜り、都会の喧騒が嘘のように遠のく参道へと足を踏み入れていた。

「はぁ……っ! 大門の近代的なオフィス街のすぐ真横に、こんなにも清らかで凛とした神域が広がっているなんて……。慶長五年に徳川家康公が関ヶ原の戦いへ向かう際、天下太平と勝利を祈願して見事『勝運』を掴み取ったという歴史、この白亜の大鳥居を見上げるだけで背筋がピンと伸ばされる思いだわ、佐久間君」

白地に凛と咲く朝顔模様のクラシカルなワンピースを纏ったヤヨイが、丸眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせながら、感嘆の吐息を漏らした。その傍らには、十社めぐり専用の朱印帳と取材ノートを大切に収めた巾着が揺れている。

「ええ。寛弘二年に一条天皇の時代に創始され、伊勢の神宮の天照皇大御神と豊受大神をお祀りする、江戸から令和に至るまで『強運』の象徴であり続ける神社です。ヤヨイさんの新連載の成功と、これからの僕たちの未来を祈願するのに、これ以上の舞台はありません」

木々模様の落ち着いたジャケット姿の佐久間が、ヤヨイの重い資料巾着と愛用の一眼レフカメラが入ったバッグを、片手で当たり前のように自分の肩へサッと背負い直した。

「ヤヨイさん、参道の階段は少し段差がありますから足元に気を付けてください。僕の腕を掴んで歩いてくださいね」

佐久間が自然な所作でそっと左腕を差し出す。ヤヨイは丸眼鏡の位置をそっと直すと、最高に愛おしそうに微笑みながら、迷いなくその腕に優しく手を重ねた。直に伝わる、佐久間の力強く温かな体温。

第2章:千木筥の鈴の音と、三が日一時間待ちの『強運』の約束

佐久間とやよい、芝大神宮、参道
佐久間とやよい、芝大神宮、参道

拝殿で頭を下げ、深く清らかな神気に身を包まれた後、二人は江戸時代の力士たちが力量を競った「力石(五十ノ貫)」や、徳を貯め縁を貯めるとされる「貯金塚」を巡り、授与所へと足を運んだ。
朱塗りの授与所の棚には、この神社ならではの可憐な授与品がずらりと並んでいる。

「あら……! 佐久間君、見てちょうだい! この『千木筥(ちぎばこ)』、なんて可憐で素敵なの……」

ヤヨイが感嘆の声を上げたのは、藤細工で出来た小ぶりな三段の三合枡に、色鮮やかな千代紙と鈴があしらわれたお守りだった。手に取ると、カラカラと実に涼やかで綺麗な鈴の音が境内に響く。

「千木が『千着の着物』に通じ、一生お召し物に困らない、転じて生涯の良縁と幸福に恵まれるという江戸時代からの言い伝えがある名物です。……ヤヨイさん、この千木筥は、僕からあなたへ贈らせてください」

佐久間はそう言うと、授与所で千木筥とともに、ひとつの案内札を静かに指差し、ヤヨイを見つめた。そこには『強運(ごううん)御守』の文字。

「……芝大神宮の『強運御守』は、その年ごとの幸運色で奉製されることで有名ですが、特に年末詣から正月三が日に授与される限定の御守りは、それを授かろうとする参拝者で境内に1時間から2時間もの長蛇の列ができるほどの凄まじい人気なんです」

「1時間から2時間待ち……! それほどまでに強い『運』を引き寄せるお守りなのね」

「ええ。だからヤヨイさん、今年の年末詣、あるいは来年の正月三が日、どんなに長蛇の列に並んで待ってでも、僕があなたと一緒にその最高の強運御守を授かりにまた来ます。……あなたの生涯の衣服も、言葉を紡ぐ幸せも、そしてこれからの人生のすべてを、僕が一生かけて陰の盾となって支え抜きますから」

佐久間はそう言うと、今授かったばかりの通年の強運御守をヤヨイの手のひらに重ね、その細い指先を上から自分の大きな手でガチッと力強く包み込んだ。

佐久間とやよい、芝大神宮、本殿
佐久間とやよい、芝大神宮、本殿

「あ……佐久間君……っ! 2時間並ぶ約束に、そんなプロポーズみたいな言葉まで添えてくれるなんて……っ。どこまでもズルいくらいに男前なんだから。丸眼鏡が嬉しさで曇っちゃうじゃない。……あなたと一緒にこの芝大神宮に立てていること自体が、私の人生最大の『強運』なのよ」

千木筥のカラカラという可憐な鈴の音と、重なる手のひらの体温。大門の風が二人の着こなす装いを優しく揺らしていた。

第3章:六月の茅の輪、七月の風鈴〜老舗蕎麦屋で紡ぐ未来〜

佐久間とやよい、芝大神宮、本殿
佐久間とやよい、芝大神宮、本殿

「それに、佐久間君。こちらの案内を見たら、授与品はそれだけじゃないのね。六月三十日の夏越しの大祓で授与される特別な『茅の輪守り』や、七月に境内で涼やかな音を立てる『神明風鈴』も、とても人気があるそうよ」

「ええ。六月の茅の輪守りで無病息災を祈り、七月の神明風鈴の音色で涼を呼び込む。そして九月の11日間続く『だらだら祭り(生姜市)』を経て、年末三が日の強運御守へ……。芝大神宮は、四季折々に僕たちの巡り会いを祝福してくれる場所です」

参拝を終えた二人は、大門の交差点近くにある下町風情の漂う老舗蕎麦屋の個室へと足を進めた。
手打ち蕎麦の芳醇な香りと、生姜の爽やかな薬味がテーブルに並ぶ。冷たいつゆに蕎麦をくぐらせながら、二人は向かい合って優しく微笑み合った。

「ふぅ……すごく美味しいわね。佐久間君、あなたの完璧な歴史リサーチとエスコートのおかげで、『東京十社めぐり』の第二章も最高の滑り出しよ。歌舞伎の『め組の喧嘩』の意気地みたいに、男らしくて頼もしいあなたの姿を近くで見られて、胸がドキドキしっぱなしだったわ」

「いいえ、ヤヨイさんの紡ぐ言葉が素晴らしいからです。……ヤヨイさん、六月の茅の輪守りも、七月の神明風鈴も、そして年末の強運御守も、全部僕と一緒に授かりに来ましょう。仕事のプロデューサーとしても、一人の男としても、あなたの人生の主役として一生隣から離れません」

「ふふ、もう離すつもりなんて最初から一切ないわよ、佐久間君。次の『赤坂氷川神社』や『亀戸天神社』へ向かう旅路も、ずっと私をエスコートしてね、私の生涯の主役さん」

大門の街並みに打ち水のような爽やかな風が吹き抜けていく。
関東のお伊勢さまの深い格式と、千木筥に込められた江戸の粋に彩られた二人の絆は、これから巡る四季の行事とともに、どこまでも強く、そして熱く結ばれていくのだった。