待乳山聖天 本龍院(東京・台東区浅草)Private参拝Story

待乳山聖天、参道階段、ちーこと蒼井
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【第一幕:佐久間&ヤヨイ 取材本編】

『ふろふき大根の記憶と、歓喜天の深き誓い——千四百年の霊峰に刻む不滅の言霊』

第一章:参拝者あふれる霊峰と、手渡された瑞々しい白大根

五月中旬の午前十一時。隅田川からの爽やかな川風が、待乳山の木々をさざめかせていた。 かつて広重の浮世絵にも描かれた全長四十五メートルの重厚な「築地塀」に沿って歩くと、平日にもかかわらず、本堂へ向かう参拝者の姿が途切れることなく続いていた。若いカップルからビジネスパーソン、熱心に手を合わせる信徒まで、二〜三年前の静けさと比べても明らかに境内の活気は増している。 藍色の着物姿のヤヨイは、愛用の丸眼鏡の位置を直し、山門の手水舎で柄杓を取った。

「佐久間君、十回以上通ったこの待乳山だけれど、ここ数年の参拝の方の多さには目を見張るものがあるわね。誰もがこの激動の時代の中で、本物の救いと揺るぎない導きを求めて、この丘へ登ってくるのかしら」

木々模様のサマージャケットを着こなす佐久間学は、寺務所のカウンターで一本の瑞々しい生大根を受け取り、ヤヨイの隣へと戻ってきた。

「ええ。大聖歓喜天(聖天様)は、仏教の諸尊の中でも最も人々の現世の切実な苦しみに寄り添ってくださる仏です。人間の欲望や怒りを頭から否定するのではなく、大根を供えることで三毒(怒り・貪り・愚かさ)を洗い流し、清らかな心で願うならば、どんな困難な願いでも成就へ導いてくださる。その圧倒的な霊験が、SNSや口コミを超えて多くの人々の魂を呼び寄せているのでしょう」

「大根をお供えして、己の汚れを清める……。この白大根のずっしりとした重みが、自分の心の姿勢を正してくれるようね」

ヤヨイは佐久間とともに、大根と巾着の紋様が刻まれた石段を一段ずつ踏みしめ、山上の本堂へと登っていった。

第二章:大根まつりの熱気と、毘沙門天の宝槍が射抜く覚悟

本堂の扉を開けると、厳修される秘法「浴油祈祷」の微かな胡麻油の香りと、幾千の祈りが染み付いたお香の煙がふたりを包み込んだ。 ご宝前には、信徒から奉納された見事な大根が幾重にも積み上げられている。佐久間とヤヨイは、手にした大根をご宝前へ恭しく奉納し、正座して合掌した。 ご本尊の脇侍として安置されているのは、浅草名所七福神の「毘沙門天」。右手に宝槍を握り、左手に宝塔を掲げ、迷いや悪鬼を踏み敷くその凛々しい姿に、ヤヨイは息をのんだ。

「佐久間君……思い出すわね。一月の初詣でいただいた香り高い振る舞い酒の清々しさ。そして、一月七日の『大根まつり』……!」

「ええ。元旦から聖天様にお供えされた数千本の大根を調理し、大般若法要の後に参拝者全員へ振る舞われる名物のふろふき大根ですね。境内の外まで何重にも伸びたあの長蛇の列に並び、木枯らしの中でいただいた熱々の大根と、甘辛い特製味噌の美味しさ……」

「湯気と一緒に口いっぱいに広がったあの温かさは、理屈を超えて『生きていてよかった、見守られているんだ』という深い感謝に満ちていたわ。でも佐久間君、聖天様にはその絶大な慈愛の裏に、恐ろしいほどの厳格さがあるのよね」

佐久間は毘沙門天の鋭い眼光を見つめ、低く厳かな声で語りかけた。

「ええ。『聖天様はいかなる無理な願いも叶えてくださるが、一度願を掛けたら一生涯敬い続けねばならない。途中で心変わりをしたり、不義理を働いて信仰を捨てた者には、二度とご利益が降りないばかりか、厳しい戒めが下る』と古くから伝わります。神仏と人間との、命懸けの約束なのです」

「命懸けの約束……。佐久間君、私が文章を書き、読者に届けることも同じだわ。時代の流行に流されて言葉を安売りしたり、読者への誠実さを裏切るような心変わりは絶対に許されない。この毘沙門天様の槍のように、まっすぐに真実を射抜く覚悟を持たなければ」

「ヤヨイさん、あなたのその純粋で強靭な覚悟があるからこそ、僕は何があってもあなたを守り、その言葉を世界へ送り届けると誓えるのです。僕のこの誓いもまた、生涯決して揺らぐことはありません」

ふたりは深く頭を垂れ、毘沙門天と聖天様へ不退転の祈りを捧げた。

第三章:おさがり大根の温もりと、隅田川を望むスカイツリー

参拝を終えて本堂を出た二人は、参道脇にあるお堂へと足を運んだ。 そこには、前日にご宝前へ奉納された大根が、食紅で鮮やかに「御供物」と押印され、参拝者が持ち帰れる「おさがり大根」として整然と並べられていた。

「佐久間君、聖天様のおさがり大根をいただけるわね」

「ええ。神仏の御神徳が宿ったこの大根を家に持ち帰り、いただくことで、身体の芯から病魔を祓い、一家和合の福徳を授かります。ありがたく一体いただきましょう」

備え付けの袋に丁寧に大根を収めたヤヨイは、境内の高台から東の空を見晴るかした。 眼下には穏やかにきらめく隅田川の流れ、そして初夏の青空を突き刺すようにそびえ立つ東京スカイツリーの白銀の塔。

「千四百年前、金色の龍が舞い降りて始まった待乳山の奇跡が、今もこうして大根の温もりと共に生き続けている……。佐久間君、浅草名所七福神の旅も、いよいよ最高潮を迎えたわね」

「ええ。あなたの紡いだ言霊は、必ずや多くの人々の心を照らす光となります。さあ、この旅の結びへ向けて、共に行きましょう」

おさがり大根の重みを胸に抱き、二人は満ち足りた笑顔で待乳山の石段をゆっくりと降りていった。

【第二幕:ちーこ&蒼井 スピンオフ・ダブルストーリー】

『さくらレールと特大おさがり大根——絶対に心変わりしない男の約束』

第一章:【ビジネスアフターフォロー編】急増する参拝客と、4Kシネマティックで追う大根と巾着

「うわぁぁ〜〜〜っ! 蒼井さん見て! 境内がすっごい人! 2〜3年前に来たときよりも、若い人たちがい〜っぱい並んでるよ!」

五月中旬の午前、大型カメラバッグを背負ったちーこは、待乳山聖天の山門前で目を丸くして歓声を上げた。

「おい、ちーこ、声を落とせ。……だが、ヤヨイさんたちのリサーチ通りだな。最近の聖天様の人気と参拝客の増加は凄まじい。まずは撮影だ。参拝者の邪魔にならないよう、超広角で境内の動線を押さえるぞ」

チーフプロデューサー兼ディレクターの蒼井は、大型ジンバルを巧みに操りながら、石段の脇に設置されたモノレール型スロープカー「さくらレール」を指差した。

「今回は『歴史ある霊峰の厳格さと、現代に息づく大根信仰』がテーマだ。境内の至る所にある二股大根と巾着の意匠、江戸の築地塀の陰影、そしてさくらレールが登っていく情緒を、4Kの高精細なシネマティックトーンで捉えるぞ」

「了解っ! 私、本堂のご宝前に山積みになってる立派な大根の寄りと、出世観音様の木漏れ日、バッチリ抜いてくるね!」

二人は息の合ったチームワークで撮影を進めた。 境内を吹き抜ける薫風に揺れる提灯の大根マーク、参拝者が真剣に手を合わせる横顔、そしてスカイツリーのダイナミックな借景。佐久間たちの重厚なテキストと完璧に調和する、神聖で力強い映像が次々と記録されていく。

「よし、カットだ。光も構図も完璧だな。……ちーこ、撮影ミッション完了だ」

「はーい! お疲れ様でした〜っ! ということは……蒼井さん! 私たちのプライベート参拝とお買い物タイムだね!」

第二章:【完全プライベートデート編】おさがり大根のおでんと、蒼井の不器用な誓い

撮影機材を片付け、寺務所で生大根を一本買い求めたふたりは、本堂へ上がってしっかりとご宝前にお供えし、手を合わせた。 参拝を終えて外に出ると、ちーこは吸い寄せられるように「おさがり大根」の配布所へダッシュした。

「あったぁぁぁ! 食紅のスタンプが押してある『おさがり大根』! 蒼井さん、見て見て! すっごく太くて立派な大根だよ!」

「お前、本当に食べ物見つけるスピードだけはプロ級だな……」

呆れ顔の蒼井だったが、ちーこは抱えきれないほど大きな大根を大事そうに胸に抱きかかえ、満面の笑みを浮かべた。

「ふふ〜ん! このおさがり大根ね、おうちに持って帰って食べると、聖天様のご利益でず〜っと健康でいられるんだって! だからね蒼井さん、今夜のお夕飯はこれで決まり! 私が腕によりをかけて、特製味噌のあったか〜い『おでん&ふろふき大根』作ってあげる!」

「……お前、味付け濃くしすぎて焦がすなよ」

「失礼な! 隠し味に愛情たっぷり入れるから世界一美味しくなるもんね!」

ふたりはそのまま、境内脇の「さくらレール」に乗り込んだ。カタカタと音を立てて山を下りていく小さな車両の中で、ちーこは窓の外のスカイツリーを見つめながら、ふと真面目な顔になって呟いた。

「ねぇ、蒼井さん。さっきヤヨイさんたちのメモで読んだんだけど……聖天様って、なんでも願いを叶えてくれるけど、途中で心変わりしたり不義理をすると、二度とご利益くれなくなっちゃうんだって。……神様との約束って、すっごく厳しいんだね」

「そうだな。本気で願うなら、それ相応の覚悟を持てってことだ。中途半端な気持ちで近づいちゃいけない場所なんだよ」

「……ねぇ蒼井さん。蒼井さんは、心変わり……しない?」

ちーこが大根をぎゅっと抱きしめたまま、不安そうに上目遣いで見つめてくる。 いつもの元気な調子とは違うその小さな問いかけに、蒼井は一瞬驚いたように目を瞬かせた。 やがて蒼井は黒縁メガネの位置を指先で直し、ふっと優しく息を吐いてちーこの頭をぽんと撫でた。

「……バカ。俺が今まで、一度引き受けた仕事や約束を途中で投げ出したことあったか?」

「……ない」

「だろ。お前がどんなに無茶な提案をしてきても、どれだけ騒がしくても、俺はお前の最高の相棒で居続けるって決めてんだよ。……心変わりなんて、するわけないだろ」

「……っ! 蒼井さん……!」

ちーこの瞳が一気に潤み、満面の笑顔がパッと咲いた。

「えへへ! 言ったね! 聖天様の前で言ったんだから、絶対に取り消し不可だからね!」

「はいはい。だからその重い大根、俺に持たせろ。腕が疲れるだろ」

蒼井がちーこの手から大きな大根をひょいと受け取り、自分の腕へと抱え直す。 さくらレールが地上へと到着し、初夏の心地よい風がふたりを包み込んだ。 絶対に揺らぐことのない確かな絆と、聖天様が授けてくれた温かな大根の福徳を抱きしめて、ふたりはどこまでも明るい笑顔で浅草の街へと歩み出していった。