浅草寺 短編ストーリー『慈悲の風、繋がる足跡』

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

最終章:冬(二月上旬・節分会の狂熱と、福を呼び込む千秋万歳)

チーコと蒼井浅草寺参道(秋)

浅草寺の【節分会(せつぶんえ)】といえば、日本で最初に節分を行なったとも言われる非常に歴史ある行事です。本堂の特設舞台から撒かれる豆とともに、浅草ならではの「観音様の前には鬼はいない」という教えから「鬼は外」を言わず「千秋万歳(せんしゅうばんぜい)、福は内!」と叫ぶ独特の掛け声や、華やかな「七福神舞」が披露され、境内は凄まじい活気と熱気に包まれます。


二月上旬。隅田川から吹き付ける鋭い木枯らしが、浅草の街を冷徹に包み込んでいた。しかし、雷門の大きな赤提灯をくぐり、仲見世通りを抜けた先にある浅草寺の境内は、冬の寒さを完全に融かすほどの凄まじい熱気に包まれていた。
この日は、浅草に春の訪れを告げる伝統行事「節分会(せつぶんえ)」。
本堂の前に組まれた巨大な特設舞台の周りには、一年の邪気を祓い、新しい季節の福を呼び込もうと、おびたたしい数の参拝客が白い息を吐きながら集まっている。

「千秋万歳(せんしゅうばんぜい)――っ、福は内――!」

浅草寺の節分会では、不思議なことに「鬼は外」の掛け声が聞こえない。観音様の前には鬼など存在しないという、この地ならではの慈悲深い教え。代わりに響き渡る「千秋万歳、福は内」という気風の良い大歓声とともに、舞台の上からきらびやかな衣装をまとった七福神たちが優雅に舞い、色鮮やかな福豆が宙を舞う。その狂熱の瞬間を、チームケロは見つめていた。

「ふはぁ……! 先輩、すごい活気です! 寒さを忘れるくらい、皆さんの笑顔がキラキラしてますね!」

チーコはキャメル色の薄手ニットの上に羽織ったコートの襟元を揺らしながら、のんびりとした、けれど興奮を隠せない笑顔を咲かせた。しかし、彼女の手元を見ると手袋は外され、カメラのグリップを剥き出しの指先でぎゅっと握りしめていた。ダイヤル操作を皮膚感覚で正確に行うため、冬の寒さでも絶対に手袋をしないというプロとしてのポリシー。その指先は、すっかり冷え切って赤くなっている。

「チーコ、またそうやって夢中になって手袋を外す。指の感覚がなくなったらシャッターを切れないだろ」

撮影終了の合図とともに、蒼井はシネマカメラのジンバルを脇に抱え、自分のコートのポケットから温まったカイロを取り出した。そして、躊躇うことなくチーコの冷たい両手を包み込み、自分のポケットの奥深くへと引き入れた。

「あ……先輩のポケット、すごくあったかいです……」

「そのつもりで温めておいたんだよ。……チーコ、浅草寺の観音様の前には鬼がいないみたいに、俺とお前の間にも、もうビジネスパートナーなんていう曖昧な境界線(鬼)は必要ないだろ。お前のファインダーの隣は、俺だけの特等席だって、もう自分に嘘はつかない。仕事でも、それ以外でも、ずっと俺の隣にいろ」

「先輩……っ」

至近距離で目が合う。舞い散る福豆の声が遠くに響くなか、重なり合った二人の手のひらは、どんな冬の寒さも溶かすほど温かかった。チーコの頬は、冬の浅草の空に映える朱色の本堂よりも、鮮やかな赤に染まっていった。

その頃、本堂の少し裏手に佇む静謐な境内の片隅では、ヤヨイが佐久間から自分の厚手のマフラーを首元に優しく巻かれ、丸眼鏡の奥の瞳を愛おしそうに細めていた。

「佐久間君、ありがとう。あなたがいてくれるから、私は人混みに流されず、この境内に言葉を尽くせるわ。最高のパートナーね」

「ヤヨイさん、お疲れ様です。節分会の歴史、および混雑を回避するための周辺ルートのデータをすべてノートにコンプリートしてあります」

二十六歳の佐久間学は、黒髪短髪の落ち着いた佇まいで、いつものカーキ色のジャケットの襟を少し立て、ヤヨイの丸眼鏡越しに見つめる瞳を真っ直ぐに射抜いた。

「それと、ヤヨイさん。浅草の節分で、ヤヨイさんの心の中にある『後輩を頼ることへの不安』という鬼は、僕が全部追い出しました。これからは仕事のフリをする言い訳の嘘はやめます。僕を、一人の男として、生涯のパートナーにしてください。あなたの未来のノートの余白、僕の名前だけで埋め尽くさせてください」

「……っ、もう! 佐久間君はいつも直球なんだから。丸眼鏡が曇っちゃうくらい、顔が熱くなっちゃうじゃない」

不器用で、けれど一切の濁りのない真実の言葉。ヤヨイは驚きに瞳を潤ませ、それから、長い黒髪を耳にかけながら優しく微笑んだ。お互いを生涯のパートナーとして強く意識し始めた二人の温かい熱が、浅草の境内に、じんわりと満ちていくようだった。

「(小声で)まゆみさん、見た!? 浅草寺の節分会パワー、僕たちの予想を遥かに超えて爆発してるよ……!」
「(小声で)ね! 福は内、の言葉通りに先輩たちの恋の福が完璧に結ばれちゃった! 私たちもこの春の最高の余韻、SNSのストーリー用にバッチリ下書きしとこ!」

新人ADの近藤とまゆみも、先輩たちの幸せな結末を誇らしそうにノートに書き留めていた。

「よし、チームケロ、浅草寺の節分ロケ、これ以上ない大成功だ! 撤収して、次は新しい良縁を結ぶ都会のオアシス、赤坂氷川神社へ向かうぞ!」

蒼井の力強い声が冬の境内に響く。チーコは満面の笑みで答えた。

「はい! 先輩の隣なら、どこまででも新しいご縁を追いかけます!」

夕暮れ時、ライトアップされた五重塔が冬の夜空に美しく浮かび上がる。浅草の地で最初の「福」を結んだ四人の足取りは、それぞれの胸に消えない真実のぬくもりを抱いたまま、次なる東京の聖地へと、うきうきとした足取りで向かっていくのだった。

最終章 【撮影現場からAD近藤&まゆみのミニ日記】

皆さんこんにちは!ADの近藤とまゆみです!
今回は、浅草寺編の最終章をリニューアル。2月の伝統行事「節分会」の様子をお届けしました。

浅草寺の豆まきは「観音様の前には鬼はいない」ということで、「鬼は外」を言わずに「千秋万歳、福は内!」と叫ぶんです!境内の熱気と、きらびやかな七福神舞の迫力に、私たちADコンビも寒さを忘れて大興奮でした。

そんななか、指を真っ赤にしながら撮影するチーコ先輩を、自分のポケットで温めながら「もう境界線(鬼)なんて必要ない、ずっと隣にいろ」とガツンと伝えた蒼井先輩の姿や、ヤヨイさんの心の不安を一生かけて追い出すと誓った佐久間さんの真っ直ぐな言葉に、後ろで見ていた私たちは胸キュンのあまり限界突破して大号泣でした……!
まさに「福は内」が完璧に結ばれたハッピーエンドです!

チームケロの浅草での物語はここで美しく結ばれましたが、次回からは、あの都会のオアシス【赤坂氷川神社】編へと物語が繋がっていきます。
また新しい素敵なドラマをお届けしますので、ぜひ楽しみに待っていてくださいね!
(AD:近藤・まゆみ)