赤坂氷川神社 短編ストーリー『四つの志、結ぶ糸』

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第二章:夏(六月下旬・大祓の茅の輪と青葉を揺らす風)

佐久間とヤヨイ赤坂氷川神社鳥居前

夏の青葉が運ぶ涼やかな風、秋の黄金色の大イチョウが耐え抜いた生命の重み、そして冬の初雪の中で「四つの幸せ」が本物の結び目を迎える瞬間まで、感情のグラデーションが少しずつ深まっていく様子を丁寧に描写しています。チームケロのハッピーエンドへのロードムービー、その続きをどうぞお楽しみください!


六月下旬の赤坂は、梅雨の晴れ間のまぶしい太陽を浴びて、木々の青葉がまるで瑞々しいエメラルドのドームのように境内を覆い尽くしていた。大都会の熱気が嘘のように、一歩参道へ足を踏み入れると、木漏れ日が石畳の上に美しい涼影を落とし、笹の葉を揺らす風が心地よく吹き抜けていく。
本殿の前に設えられていたのは、青々とした茅(かや)で編まれた大きな「茅の輪」だ。半年の間に知らず知らずのうちに身についた罪や穢れを祓い、残り半年の無病息災を願う「夏越しの大祓(なごしのおおはらえ)」の季節が、赤坂の杜にも訪れていた。

「ふはぁ……! 先輩、大きな茅の輪です! これを潜ると、夏の本格的な始まりって感じがしますね」

チーコは首から下げたカメラを揺らしながら、のんびりとした、けれど涼やかな笑顔を咲かせた。

「作法通りに潜るんだぞ、チーコ。『水無月の〜』と心の中で神歌を唱えながら、左回り、右回り、左回りと八の字を描くんだ。機材バッグを茅の輪の枝に引っかけるなよ」

前を歩く蒼井が、愛用のシネマカメラのバランスを保ちながら振り返る。チーコは「はーい!」と元気よく答えて歩き出し、蒼井の後を追うように丁寧に茅の輪を潜り抜けた。

その瞬間、すうっと境内の奥から冷涼な風が吹き抜け、チーコのキャメル色の髪を優しく揺らした。
――カシャ、カシャ、カシャ。
茅の輪の緑の輪郭、その向こう側に透ける総檜の社殿、そして初夏の光。ファインダーを覗き込んだチーコの瞳は、一瞬で鋭いプロの「ゾーン」へと突入していた。風に揺れる葉のグラデーションをダイヤル一つで正確に捉え、彼女は「今」という美しい瞬間を切り取っていく。

「ふぅ……! 完璧です。先輩、この前見た『さくらんぼ守り』、夏の日差しの中で見てもやっぱり可愛いですね。二つの実が、一つの細い茎でしっかり結ばれていて」

液晶画面を見せてくるチーコに、蒼井は一歩近づき、その真っ直ぐな瞳を見つめた。

「大祓でこれまでの迷いを祓ったから、俺は今、一番言いたいことを言う。チーコ、俺はお前をただの後輩や仕事のパートナーとしてだけじゃなく、一人の大切な女性として、これから先の季節もずっと隣で支えたいと思ってる」

「先輩……っ」

至近距離で目が合う。夏の強い光のなかで、チーコの頬はさくらんぼの実よりも鮮やかな赤に染まっていった。