鷲神社 (東京・台東区千束)Private参拝Story

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【第一部:佐久間&ヤヨイ 取材本編】

『浅き春の千束に薫る文学の風と、開運大熊手——社務所開きの朝に撫でる福の顔』

第一章:三月初旬の朝気と、通りに面した大熊手の威容

三月初旬の朝九時。冬の名残を感じさせる張りつめた冷気の中に、どこか微かに土の温もりと春の芽吹きが混じる浅草・千束。国際通りからわずかに折れた通り沿いに面して、大きく開かれた鷲神社の境内が姿を現した。 普段は大型バスや無数の参拝者の車を受け入れる広々とした駐車場の敷地は、朝一番の澄み渡る静寂に包まれている。十一月の酉の市の折には足の踏み場もないほど群衆で埋め尽くされるその空間が、今は凛とした朝の光をそのまま反射していた。 桃色の差し色が入った上品な春単衣の着物に生成りのショールを羽織ったヤヨイは、丸眼鏡の位置を指先で直しながら、参道入り口で足を止めて感嘆の声を上げた。

「見て、佐久間君……! 通りから入ってすぐの入り口に、あんなにも立派で絢爛豪華な特大の熊手が飾られているわ! 黄金の小判に米俵、お多福の面まで……十一月の酉の市の熱気が、この春の朝にもそのまま宿っているみたい」

木々模様のシックな冬ジャケットを着こなす佐久間学は、ヤヨイの手荷物と重い取材機材バッグを軽やかに肩に担ぎ直し、穏やかな眼差しを熊手へと向けた。

「ええ。日本武尊が東征の戦勝を祝い、松に武具の熊手を掛けて勝ち戦を寿いだのが酉の市の起源と伝わります。十一月の酉の日には深夜零時の一番太鼓とともに無数の熊手商が立ち並び、手締めの音が夜通し響き渡る江戸随一の祭礼の地。ですが、社務所が開いて間もないこの清冽な朝の時間帯こそ、神社の本来持つ清らかな神気と由緒をじっくりと味わうことができますね」

「本当にそうね。この広い敷地を吹き抜ける風が、とても心地いいわ」

ヤヨイは愛用の取材ノートを開き、朝の柔らかな木漏れ日の中で万年筆を走らせた。

第二章:拝殿に鎮座する巨大「なでおかめ」と、寿老人の知恵

手水舎で清めを済ませた二人は、朱塗りの拝殿へと進み、並んで二拝二拍手一拝を捧げた。 参拝を終えて顔を上げた瞬間、拝殿の正面に据えられた見上げるほど巨大な木彫りのお面に、ヤヨイは思わず目を丸くした。

「まあ……! なんて福々しくて大きなお面かしら! ふっくらとした頬に、優しい目元……見ているだけでこちらの心まで丸くほどけていくようだわ」

「鷲神社名物の『なでおかめ』です。撫でる顔の部位によって異なる御神徳を授かることができるとされ、江戸の昔から庶民に親しまれてきました。おでこを撫でれば賢くなり、目は先見の明が利き、鼻は金運、右頬は恋愛成就、左頬は健康、口は災難を防ぎ、顎から時計回りに撫でると物事が丸く収まると言われています」

「部位ごとにそんな細やかな願いが込められているのね……!」

ヤヨイが感嘆の吐息を漏らすと、佐久間はそっと手を伸ばし、艶やかに光るおかめの『目』を優しく撫でた。

「佐久間君、目を撫でたの?」

「ええ。ヤヨイさんの澄んだ瞳が、これからも時代の本質と人の心の美しさを捉え、素晴らしい物語を書き続けられますように……と願いました」

「佐久間君ったら、自分のことより私の仕事の願いだなんて……」

照れくさそうに頬を染めたヤヨイは、今度は自ら手を伸ばし、おかめの『左の頬』を慈しむようにそっと撫でた。

「私はね、佐久間君の健康をお願いしたわ。私の前を歩いて、いつも迷わないようにエスコートしてくれるあなたが、健やかで笑顔でいてくれなければ困るもの」

「……ありがとうございます。これ以上の健康のお守りはありませんね」

佐久間は低く柔らかな声で微笑み、拝殿の奥へと視線を向けた。そこには豊かな白髯をたくわえ、静かに微笑む「寿老人」の御神像が鎮座していた。

「寿老人は道教の仙人であり、南極老人星の化身。延命長寿だけでなく、人の進むべき道を照らす知恵の神様です。目先の欲にとらわれず、長く息の長い言葉を紡ぐヤヨイさんの姿勢を、寿老人様も温かく見守ってくださっていますよ」

第三章:個性豊かな授与品と、一葉が愛した千束の風

拝殿をあとにした二人は、開いたばかりの社務所の授与所へと足を運んだ。 ずらりと並ぶ授与品を眺めていたヤヨイが、ふと足を止めて声を立てた。

「あら……? 佐久間君、見て! 酉の市の伝統的なかっこめ熊手や福禄寿のお守りの隣に……『ゴルフ守り』なんていうユニークなお守りもあるわ!」

「鷲(イーグル)神社という社名にちなんで、ゴルフの『イーグル』や『バーディー』を祈願するお守りですね。鷲の爪が獲物を決して離さない『鷲づかみ守』のように、時代のニーズに合わせて人々の開運や勝利の願いを受け止める懐の深さも、この神社の魅力です」

「伝統を重んじながらも、現代の人々の祈りに寄り添う柔軟さ……江戸の下町らしい粋を感じるわね」

境内の一角に佇む樋口一葉の文学碑の前で、ヤヨイは『たけくらべ』の一節に思いを馳せながら、取材の結びの言葉をノートへと記した。

「十一月の熱狂的な酉の市を支えるのは、三月のこの静けさの中で育まれる揺るぎない地域の信仰なのね。佐久間君、今日も素晴らしい取材になったわ」

「ええ。あなたの紡ぐ言葉が、多くの人々の心に福と知恵をかき集める熊手となりますように。次の社へも、僕がしっかりとお連れします」

三月の爽やかな朝風に包まれながら、二人は満ち足りた笑顔を交わし、次の目的地へと歩みを進めた。

【第二部:ちーこ&蒼井 スピンオフ・ダブルストーリー】

『朝イチの広大な境内で見つけた、巨大おかめとイーグルの奇跡』

第一章:【ビジネスアフターフォロー編】朝の斜光と大熊手のシネマティック4K

「ふぁぁ……っ、蒼井さん、社務所が開く朝九時ぴったりに来た甲斐があったね! 見て、この広い駐車場! 誰にも邪魔されずに広角レンズが振り回せるよ!」

三月初旬の朝九時過ぎ。私服のニット帽にロングマフラーを巻いたカメラマンのちーこは、鷲神社の広大な敷地を見渡して元気いっぱいに声を弾ませた。

「おい、ちーこ。朝の静かな境内なんだから声を張るな。……だが、ヤヨイさんたちのレポート通りだな。通り沿いの入り口にある特大の熊手、朝の低い斜光が当たって金箔の質感が最高に映えてるぞ」

チーフプロデューサー兼映像クリエイターの蒼井は、黒縁メガネの奥の瞳を鋭く光らせ、大型ジンバルに載せたカメラのフレームレートを設定した。

「今回は『下町の祭礼文化と春の静寂』がテーマだ。十一月の酉の市の熱気を想起させる大熊手のディテールから、社務所開きの静かな拝殿、そして巨大おかめの木肌の艶まで、4Kの高精細なシネマティックトーンで一気に押さえるぞ」

「了解っ! 私、通りから入ってくるアプローチのローアングルと、特大熊手の小判の接写、バッチリ抜いてくるね!」

二人は息の合った阿吽の呼吸で撮影を進めた。 朝の澄んだ空気の中、入り口の大熊手が放つ圧倒的な黄金の輝き、拝殿の重厚な彫刻、そして奥に控える寿老人の柔和な姿。佐久間たちの緻密なテキストを視覚的に彩る最高のカットが、次々とメモリカードへ記録されていく。

「よし、OKだ。朝一番の光の抜け感が完璧に活かせたな。……ちーこ、仕事は終わりだ。機材を片付けるぞ」

「はーい! ……ということは、蒼井さん! ここからはお待ちかねのプライベート参拝デートだね!」

第二章:【完全プライベートデート編】なでおかめの鼻と、ゴルフ守りに込めた願い

「うわぁぁ〜っ! 近くで見ると本当にすっごく大きなお面!」

撮影を終え、参拝のために改めて拝殿に上がったチーコは、目の前に鎮座する巨大な「なでおかめ」を見上げて両手をパチパチと叩いた。

「おい、ちーこ。ヤヨイさんのメモに書いてあった撫で分け、覚えてるか?」

「もちろん! おでこが頭、目が先見の明、鼻が金運、右頬が恋愛、左頬が健康、口が厄除け、顎から時計回りが丸く収まる……だよね! 蒼井さんはどこ撫でるの?」

「俺は……そうだな。制作会社の資金繰りと機材費のために、ここだな」

蒼井がおかめの『鼻(金運)』をこれでもかと言わんばかりに念入りに撫で回す姿を見て、ちーこは吹き出した。

「あはは! 蒼井さんったら超現実的! 鼻がツルツルになっちゃうよ! じゃあ私はね〜……ここ!」

ちーこは背伸びをして、おかめの『右の頬(恋愛成就・良縁)』と『顎から時計回り(円満)』を両手で優しく撫でた。

「ちーこ、そこは良縁と円満だろ」

「うん! 蒼井さんとずっと仲良しで、チームの仕事もぜ〜んぶ丸く収まりますようにってお願いしたの! 私たちにとってこれ以上大事なことないでしょ?」

屈託のない笑顔で真っ直ぐに見上げてくるちーこに、蒼井は虚を突かれたように目を瞬かせ、照れ隠しに小さく咳払いをした。

「……まあ、そうだな。仲違いしてたら良い映像も作れないしな」

「えへへ〜! あ、そうだ蒼井さん、社務所で見つけたんだけど、これ見て!」

参拝を終えた二人が授与所で足を止めると、ちーこが指差したのは緑色のパッケージに入った『ゴルフ守り』だった。

「鷲(イーグル)神社だからゴルフのお守りがあるんだって! 蒼井さんのお父さん、ゴルフ大好きって言ってたよね? お土産に買っていったら絶対喜ぶよ!」

「……よく覚えてたな、そんな前の雑談。ありがとな、親父の分と……あと、これもお揃いで買うか」

蒼井が手に取ったのは、鷲の鋭い爪が描かれた『鷲づかみ守』だった。ひとつをちーこの手のひらに乗せる。

「チャンスも幸運も、逃さず二人で掴み取るぞ」

「うんっ! 蒼井さんと一緒なら、どんなチャンスだって絶対に鷲づかみしちゃうよ!」

手の中の温かいお守りと、朝の光に包まれた広大な境内。三月の爽やかな風に見送られながら、ふたりは互いの笑顔を眩しそうに見つめ合い、仲良く並んで次の路地へと歩き出していった。