浅草寺・短編ストーリー『慈悲の風、繋がる足跡』

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第二章:夏(七月・四万六千日・ほおずき市と、青葉を揺らす風)

佐久間とヤヨイ浅草寺五重塔

今回は、七月九日・十日の二日間に開催される浅草の夏の代名詞「ほおずき市」を舞台に選びました。
境内に並ぶ鮮やかな朱色のほおずき、涼やかに響く風鈴の音、そして浴衣姿のメンバーたちが「四万六千日分」の功徳に守られながら、お互いの「今」への想いをそっと言葉に乗せる、ほのぼのとして優しい淡い恋模様を描いています。


七月九日の朝、浅草寺の境内は、五感を激しく揺さぶる圧倒的な色彩と音に満たされていた。夏の風物詩、「ほおずき市」の幕開けである。
本堂を取り囲むように並んだ数百の露店には、職人たちが手塩にかけた鮮やかな朱色のほおずきの実が実り、その鉢から吊るされた江戸風鈴が、夏の強い南風を受けてサラサラ、チリンと涼しげな音を一斉に奏でている。連日降り注ぐまばゆい太陽の光が、境内の瑞々しい青葉とほおずきのコントラストをいっそう鮮烈に浮かび上がらせていた。

「佐久間君、見て。この風鈴が揺れるたびに、夏の風が涼しさを運んでくれるみたい。ほおずきの赤が、本当に綺麗ね」

柔らかいベージュ系の浴衣の裾を少し揺らしながら、ヤヨイが丸眼鏡の位置を細い指先で直した。長い黒髪を涼しげなまとめ髪にした彼女の横顔は、いつものしっかり者のお姉さんらしい凛とした姿でありながら、初夏の熱気のせいでほんのりと桜色に上気している。SNS運営と記事校正を担当する二十八歳の彼女は、チームケロにとって無くてはならない存在だ。

「はい、ヤヨイさん。浴衣姿……言葉を失うくらい、綺麗です」

カーキ色のジャケットを脱ぎ、落ち着いたシャツを着た二十六歳の佐久間学が、真面目な顔のまま、ノートから目を離して真っ直ぐに言った。
彼は移動ルートの確認や完璧な下調べをこなす縁の下の力持ちだ。いつもは一歩引いてヤヨイを支えているが、その瞳には一切のお世辞や嘘が混ざらない。

「あ、それと、今日の『四万六千日(しまんろくせんにち)』の由来について、ノートに追記しておきました。今日お参りすると、46,000日分もお参りしたのと同じ功徳をいただけるそうです」

佐久間はそう言いながら、ショルダーバッグから小さな、けれど丁寧に手彫りされた『ほおずき守り』を取り出し、ヤヨイの手のひらにそっと乗せた。

「これ、ヤヨイさんのために受けておきました。46,000日分……一生分以上のすべての功徳を、僕はヤヨイさんの生涯の幸せを守るために使いたいです。仕事のパートナーとしてだけじゃなく、これからも、ずっと」

「佐久間、君……」

ヤヨイは手の中のお守りを見つめ、丸眼鏡の奥の瞳を驚きと愛おしさで優しく潤ませた。いつもは自分がリードしているつもりだったのに、彼の真っ直ぐすぎる直球の言葉が、胸の奥のブレーキを簡単に外してしまう。

「……ずるいわね。そんな真っ直ぐなこと言われたら、夏の暑さのせいにできないくらい、顔が熱くなっちゃうじゃない。これからも、私の隣でしっかり守ってね」

そのすぐ前方では、チーコが浴衣の袖をカメラのストラップに絡めそうになりながら、「先輩、このほおずきのローアングル、最高です!」と夢中でシャッターを切っていた。蒼井は「危ない、袖を引っかけんなよ」と苦笑しながらも、彼女の「最高の夏」を映像に収めていく。
風鈴の音が優しく響く夏の境内で、二つのコンビの想いは、一生分以上の時間を共にする約束へと、静かに、けれど確かに溶け込んでいった。