『熱帯夜のファインダー、残響のふたり』[蒼井×チーコ]

三万人のアニソン盆踊りの大狂乱が終わり、全員を解散させた後。蒼井がチーコの手をガシッと引いて向かったのは、お祭りの余韻が遠くに響く、静かな駿河台の夜の帳(とばり)。
神田明神のアニソン盆踊りがもたらした最高潮の熱狂と興奮。そこから6人のチームを完璧にエスコートして解散させた後の、お茶の水・駿河台の静かな路地裏。
賑やかな夜店やYouTube生配信の喧騒から一歩足を踏み入れた、大人のための隠れ家バーという「静」の空間。そこで五感に響くフローズンカクテルの冷たさ、夜風に揺れる花火柄の浴衣、そしてプロの顔を脱ぎ捨てて一人の男と女に戻った2人が交わす、これ以上ないほど甘く真摯な心理描写。
第1章:三万人の残響と、聖橋の上の契約
午後九時三十分。
江戸総鎮守・神田明神の隨神門の脇で、佐久間、ヤヨイ、近藤、まゆみの4人を見送り、「全員、トラブルのないように無事帰宅の任務を果たせよ」とディレクターとしての最後の指示を出し終えた時、蒼井は静かにネクタイを緩めるような安堵の息を吐いた。
4人の足取りが御茶ノ水駅と秋葉原駅の改札へと消えていくのを確認し、完全にチームケロの「仕事の時間」が終わりを告げる。
三万人のパッションが地鳴りのように櫓(やぐら)を揺らしていた境内の大熱狂から一歩外れると、駿河台の夜の帳(とばり)は、驚くほどの静寂をもって2人を包み込んだ。
蒼井とチーコは、再び神田川の深い渓谷を見下ろす「聖橋」の上、オレンジ色にまたたく常夜灯の下に並んで佇んでいた。ビル風に乗って、遠くからかすかにアニソン盆踊りの重低音の残響がドンドンと届く。それが、つい先ほどまで自分たちがその熱気の中にいたことを証明する唯一のしるべだった。
「ふはぁ……っ。みんな、無事に改札を通っていきましたね。……先輩、全員を見送った瞬間、急に周りが静かになって、なんだか急に胸の奥がバクバクしてきちゃいました。だって、さっきのあのもの凄い人混みのなかで、先輩、私の手を直接、あんなにガシッと力強く握ってくれて……」
チーコは首から下げた一眼レフカメラのストラップをぎゅっと握りしめながら、青と水色の花火図柄の浴衣の裾を小さく揺らした。いつもはおてんばに笑う彼女が、今は下を向いたまま、頬をほんのりと赤く染めている。
「チーコ、お前、さっきから下を向いたままだぞ。あの凄まじい混沌のなかで、お前が機材ごとトラブルに巻き込まれないように、そして俺の視界から消えないように手を引いたのは、ディレクターとしての当然の判断だ。……だがな」
黒に近い紺色の、端正な縦じま紬(つむぎ)の浴衣を男らしく着こなした蒼井が、チーコの前に一歩踏み込んだ。彼の大きな身体が、街灯の光を背負ってチーコの上に優しい影を作る。
蒼井はチーコの浴衣の袖をそっと引き寄せると、今度は誰の目もない聖橋の上で、彼女の小さな手のひらを、直に、ガチッと力強く包み込んだ。
「解散した後のこの時間は、もう仕事の時間は完全に終わりだ。プロのディレクターじゃなく、一人の男として、俺はお前のこの手を離したくないから握ってるんだよ。チーコ、まだお祭りの熱が冷めないな。少し、俺の我が儘に寄り道していかないか?」
「先輩……っ! はい……っ。私、先輩の紬の浴衣姿、今日はずっと格好よすぎて、本当はロケ中も直視できなかったんです。仕事の後輩じゃなくて……一人の女の子として、先輩の隣に、もっといたいです……っ!」
剥き出しの体温が、聖橋の欄干を吹き抜ける夏の夜風のなかで交差する。2人は強く結ばれた手のひらの熱さを確かめ合いながら、御茶ノ水駅の改札とは反対の、静かな駿河台の路地裏へと歩幅を合わせて歩き出した。
第2章:駿河台の隠れ家と、琥珀色の心理戦
学生街としての賑やかさを持つ御茶ノ水の喧騒から、わずかに一本折れた細い路地。そこは、蔦の絡まるレンガ造りのビルがひっそりと佇む、大人のための隠れ家のようなバーだった。
重厚な木製の大扉を開けると、カラン、と静かな氷の音が2人を迎える。
薄暗い店内のカウンター席。常夜灯を思わせる琥珀色のランプの光が、チーコの花火柄の浴衣と、蒼井の渋い紬の浴衣をドラマチックに浮かび上がらせていた。
「お待たせいたしました。今宵の熱帯夜に合わせた、特製のフローズンカクテルです」
マスターが静かに出し、グラスの表面にうっすらと白い霜をまとった、涼しげなカクテル。チーコは一眼レフをそっと隣の席に置き、両手で冷たいグラスを包み込むように持ち上げた。
「ん……っ、冷たくて、火照った体にすごく染み渡ります……。でも先輩、お祭りのアニソンのビートがまだ耳の奥でドンドン鳴ってて、先輩が隣にいると思うと、胸のドキドキが全然止まらなくて、グラスを持つ手がブレちゃいそうです……」
長い睫毛を揺らしながら、ストローの先を見つめるチーコ。その無防備で、けれど一途な横顔を、蒼井はカウンターに肘をつきながら、一切の濁りのない情熱的な大人の視線で見つめていた。
「お前がただカメラに夢中になって『ゾーン』に入っている職人の顔も最高に好きだが、こうして浴衣姿で少し赤くなって俺の隣に座っているお前は、ずるいくらいに可愛いな、チーコ」
「な……っ、先輩! 突然そういう不意打ちのセリフ、本当に反則です……っ!」
「反則じゃない、本心だ。……いいか、チーコ。俺たちは靖国神社の桜の標本木の前で『さくら守』を重ねて、生涯を共に戦い抜くって誓い合った。今日の神田明神でも『勝守』を持って、ビジネスでも人生でも完全勝利するって約束したな」
蒼井はそう言うと、カウンターの上で、チーコのカクテルを持つ手の甲を、上から自分の大きな手で包み込むようにガチッとホールドした。
「でもな、俺たちの人生という名の長いロードムービーは、これから先、何年、何十年とずっと続いていく。その中には、今日みたいな熱いお祭りの夜もあれば、凍えそうな冬の夜も何度も訪れる。チーコ、お前は本当に、仕事のパートナーとしても、生涯のパートナーとしても、一生俺の隣でその真っ直ぐな笑顔を咲かせ続ける大覚悟はできてるんだろうな?」
ディレクターとしての強烈なディレクションと、一人の男としての生涯を賭けたプロポーズが混ざり合った、ガツンと重い問いかけ。
チーコは息を呑み、丸眼鏡ならぬ大きな瞳を潤ませながら、真っ直ぐに蒼井の瞳を見つめ返した。
「先輩……っ! 先輩こそ、私の本気の熱量に、大覚悟してください! 先輩が私の冷たい向かい風を全部止めてくれる大きな樹になってくれるなら、私、仕事でも、生涯の伴侶としても、先輩の人生のファインダーの真ん中から、絶対に一生動かないんですから……っ!」
「フッ……文句なしに、世界一の返事だ。お前のその真っ直ぐな言葉、俺の胸のファインダーに完璧に焼き付けたぞ」
蒼井は満足そうに微笑むと、チーコの指先を絡めるように、これ以上ないほど愛おしそうに強く握りしめた。
隠れ家バーのなかに流れる静かなジャズの旋律と、グラスの中で溶けていく氷の音。神田明神のアニソン盆踊りの熱狂を越えた2人の絆は、これからの長い人生のどんな夜をも溶かすほどに、熱く、そして深く結ばれていったのだった。
第3章:夜風の駿河台と、永遠のロードムービー
バーを出ると、駿河台の街には、ほんの少しだけ涼しさを孕んだ深夜の夜風が吹き抜けていた。
夜店のソースの匂いも、三万人の熱気も、今はもう遠い夜の底に沈んでいる。けれど、チーコの右手と蒼井の左手は、バーを出てからもずっと、直接手のひら同士で力強く結ばれたままだった。
「ふふ、先輩。なんだか、こうして下駄の音をカランコロンって響かせながら歩いていると、私たちのこれからの未来へ続く階段を、一段ずつ上がっているみたいですね」
チーコが青と水色の花火柄の浴衣を揺らしながら、蒼井の腕にそっと自分の身体を寄せた。
「ああ。神田明神の取材記録はまもなく完成するが、俺たちの旅路はここからが新しいスタートラインだ。次は、佐久間とヤヨイ、近藤とまゆみたちの無事帰宅の報告を受けて、次なる『第三章:秋』の圧倒的な構想を練り上げる。どんなに長い人生でも、俺がお前の隣で、最高の光を一緒に追いかけ続けてやるからな」
「はい! 先輩の隣なら、どんなに熱い熱帯夜でも、その先に続く新しい季節でも、どこまでだって一生ついていきます、蒼井先輩!」
2人はゆっくりとお茶の水駅の改札へと向かって歩みを進める。
夏の熱狂の残響を残しながらも、未来のひかりへとまっすぐに歩む2人の美しい浴衣姿の背中を、江戸の粋な神域の杜は、「これからも、最高の人生の絵を撮り続けなさい」と祝福するように、静かに、優しく見守ってくれているようだった。
皆さんこんにちは!ADの近藤とまゆみです!
神田明神編の特別アフターストーリー第1作、お祭りの熱気が冷めやらぬ夜の「蒼井先輩&チーコ先輩」の本格長編ストーリーをお届けしました。
今回は、私たち4人を解散させた後、プロの顔から一人の男と女に戻ったお二人の【駿河台の隠れ家バー】での大人の時間をガッツリ描写しました。
チーコ先輩の青と水色の花火柄の浴衣と、蒼井先輩の渋い縦じま紬の浴衣が、薄暗い琥珀色のランプの光に照らされて、息を呑むほど甘くて格好よかったです……!
フローズンカクテルを前に、蒼井先輩がチーコ先輩の手を直接ガシッと力強く握りしめ、「仕事のパートナーとしても、生涯のパートナーとしても、一生俺の隣でお前の真っ直ぐな笑顔を咲かせてくれ。大覚悟、しとけよ」とガツンと想いを伝えた瞬間、チーコ先輩が「先輩のファインダーの真ん中から絶対に一生動きません!」と応える心理戦、胸キュンが限界突破してノートを抱きしめてしまいました……!
お二人の絆は、お祭りの熱狂の残響のなかで、誰よりも熱く結ばれました!
次回はいよいよ、仕事後のアフターストーリー長編第2作、IT企業の面接前夜から繋がる大人のドラマ、【第2作:佐久間×ヤヨイ編(秋葉原のネオンの陰で紡がれる主役のノート)】をお届けします!
佐久間さんがヤヨイさんをどのようにエスコートするのか、ぜひ楽しみに待っていてくださいね!
(AD:近藤・まゆみ)