『わたがしの灯火、新緑のステップ』[近藤×まゆみ]

三万人の大熱狂が引いた後の、少し寂しくて愛おしい神田明神の境内。
ぽっと優しく灯るピンク色の綿菓子の光、ソースと屋台の煙の匂い、そして静まり返る夜の神域にカランと響くラムネのビー玉の音――。
読者様が我が子の成長を見守るように、あるいは甘酸っぱい自分の青い春を思い出すように、間違いなく胸を熱くして涙するシリーズ完結編。
第1章:先輩たちの残響と、常夜灯の下の覚醒
午後九時四十分。
お茶の水駅へと向かう聖橋ルートへ消えた蒼井ディレクターとチーコ先輩。そして、秋葉原のネオンの海へと男坂を下りていった佐久間プロデューサーとヤヨイ先輩。それぞれの男性陣が、大切な女性の隣でこれ以上ないほど頼もしい「陰の盾」となってエスコートしていくハッピーエンドの後ろ姿を見届けたとき、神田明神の隨神門(ずいしんもん)の脇には、新人ADの近藤とまゆみの2人だけが残されていた。
三万人の凄まじいパッションが、アニソンの重低音とともに巨大な櫓(やぐら)を揺らしていたあの熱狂が嘘のように、波が引いた境内の夜の帳(とばり)は、どこか切なくてノスタルジックな静寂に包まれている。
焼きそばやたこ焼きの香ばしいソースの残り香が、屋台の消えかけた電球の熱とともに夜風にゆらゆらと揺れていた。
「ふはぁ……っ! 近藤君、先輩たち、本当に行っちゃったね。……なんだか、さっきまでみんなでアニソン盆踊りに熱中してたのが夢みたい。でも、みんなを見送った瞬間、急に世界に2人きりになっちゃったみたいで……。なんだかロケ中より、心臓のドンドンが大きく響いてる気がするな……」
まゆみは大きめのバッグの紐を両手でぎゅっと握りしめながら、少し汗ばんだおくれ毛を耳にかけた。日頃は熱心に取材ノートを広げて現場を走り回る彼女が、今は大きな常夜灯の下で、下駄の先を見つめたまま照れくさそうに肩をすくめている。
「まゆみさん。蒼井さんから『まゆみさんをしっかりエスコートしてトラブルがないように無事に帰るように』って、任務を命じられました。今日のロケの片付けは完璧に終わりました。だから、ここからはチームケロの新人ADとしての時間じゃありません」
近藤は大きく深呼吸をして背筋を伸ばした。日頃は先輩たちに囲まれて「おい、近藤!」とドジをイジられているいつもの不器用さを、その真っ直ぐな瞳の奥から完全に脱ぎ捨ててみせる。キャラクターが完全にひとつアップした、一人の男の顔だった。
「社会人1〜2年生の頼りない後輩じゃなくて、一人の男として、まゆみさんを都会の理不尽やノイズから120%守り抜く時間です。……ほら、まゆみさんのその重い取材ノートと資料が入ったバッグ、僕が持ちます!」
近藤はそう言うと、まゆみの肩から大きなバッグをサッと自分の肩へとスマートに背負い直した。日頃の荷物持ちの経験が、この時ばかりは最高に頼もしいエスコートの動きとなって男らしく決まる。
そして、夜店のオレンジ色の灯りに照らされたまゆみの細い指先を、そっと、けれど男らしくガチッと直接手のひらで握りしめた。剥き出しの、少し震えているけれど最高に温かい体温。
「あ……近藤君……っ。バッグ、ありがとう。……っていうか、手、すごく温かくて力強いね。普段はちょっとドジで頼りない近藤君だけど、今の近藤君の目、あの改築前の将門塚の前で『本気のデートです』って言って私を誘ってくれた時みたいに、最高に格好いいよ……っ」
「あの日の将門塚での祈りと、翌日にこの神田明神へまゆみさんを誘い出した記憶は、僕の人生の一生の宝物ですから。まゆみさん、お祭りの熱がまだ冷めない。境内の裏手に、まだ少しだけ開いている美味しい綿菓子とラムネの夜店があるんです。僕の初デートの続き、もうちょっとだけ、一緒に付き合ってくれませんか?」
重なる視線。近藤の不器用だけれど一点の曇りもない真摯な直球に、まゆみは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにコックリと頷いた。2人はしっかりと結ばれた手のひらの熱さを確かめ合いながら、静まり返る境内の奥へと歩幅を合わせて歩き出した。
第2章:綿菓子の灯火と、カランと響く一生のコンビ宣言
境内の裏手、古い常夜灯の優しい光が届く静かなベンチ。
2人の手には、夜店の電球に照らされてほんのりピンク色にぽっと光る大きな綿菓子と、冷たいラムネのガラス瓶があった。
まゆみがラムネの栓を押し込むと、プシュッという小気味よい音とともに、カラン、と涼しげなビー玉の音が静かな夜の神域に響き渡った。
「ん……っ! 冷たくてシュワシュワして、すごく美味しい! なんだか、昭和の古き良き夏祭りにタイムスリップしたみたいで、すごく胸がギュッと切なくなるね。近藤君、あなたがいつも一生懸命に私を笑わせようと、荷物を抱えて走ってくれるから……私、社会人の理不尽な荒波だって、チームケロでのこれからの大変な仕事だって、全然怖くないよ」
綿菓子を少しずつ口に運びながら、ラムネのビー玉をカランと鳴らすまゆみ。その等身大の、けれど心から自分を信頼してくれている一途な横顔を、近藤はベンチの上で真っ直ぐに見つめていた。
「まゆみさんが笑顔で最高のノートを書き留められるなら、僕はいくらでも荷物持ちでも、陰の盾でも何でもなります! ……でもね、まゆみさん。僕たちの社会人としてのロードムービーは、これから先、何年、何十年とずっと続いていきます。ハラスメントみたいな理不尽な壁にぶつかったり、仕事の大きな失敗で悔しくて涙を流す日も、絶対にあります」
近藤はそう言うと、ベンチの上で、まゆみのラムネを持つ手を両手で挟み込むように、さらにギュッと力強く握りしめた。その目には、未来を共に戦い抜くプロとしての誇りと、大切な女性を一生支え抜く男としての濁りのない決意が宿っていた。
「だけど、どんなに高い壁が来ても、僕がまゆみさんの前を走る一番の盾になります。仕事の相棒としても、生涯を共にするパートナーとしても、ずっと僕の隣で笑っていてください。僕の人生の最高の主役であり、最高のコンビは、まゆみさん、あなただけです!」
かつて大手町の将門塚で祈り、翌日この神田明神の初詣で結ばれた2人の小さなご縁。それが今、この熱帯夜の残響のなかで、確かな大人の男のディレクションとなってガツンと響き渡る。
まゆみは息を呑み、胸の奥が熱くなるあまり、本当に大切に抱きしめていた取材ノートを涙で滲ませながら、近藤の胸元にそっとおでこを預けた。
「……っ、もう! 近藤君ってば、ちょっとキャラクターがアップして、ズルいくらいに男前なんだから……っ! ノートの文字が涙で見えなくなっちゃうじゃない。……私のこれからの人生のノート、あなたという大きなぬくもりの隣で、たくさんの幸せな言葉でいっぱいにさせてね。次の『第三章:秋』のロケも、その数年後の完成祝いの未来も、ずっと私を離さないでね、近藤君!」
「はい! 絶対に離しません! 僕たち新社会人コンビの、完全勝利です!」
常夜灯の下で重なる、2人の初々しくも揺るぎない情熱的な誓い。
ピンク色の綿菓子の優しい灯火と、ラムネのビー玉がカランと鳴るノスタルジックな音に包まれながら、2人の絆は、これからの長い人生のどんな壁をも笑顔で乗り越えるほどに、深く、そして熱く結ばれていったのだった。
第3章:江戸の神域の風と、約束の未来へ
ラムネを飲み干し、バッグを背負い直して歩き出すと、神田明神の境内には、一足早く秋の気配を運んできたような、涼やかで心地よい深夜の夜風が吹き抜けていた。
三万人の熱狂のビートも、夜店の煙も、今はもう遠い夜の底に沈んでいる。けれど、まゆみの左手と近藤の右手は、お茶の水駅の改札へと向かう道すがらも、ずっと直接手のひら同士で指先を絡めるように、力強く結ばれたままだった。
「ふふ、近藤君。なんだかこうして一歩ずつ歩いていると、私たちがいつか蒼井先輩や佐久間さんみたいに、最高に格好いいプロのクリエイターになる未来へ、まっすぐに繋がっている気がするね」
まゆみが大きなバッグを背負う近藤の紺色のジャケットの袖に、そっと自分の身体を寄せた。
「ええ。神田明神の1年間の取材記録はもうすぐ完成しますけど、僕たちの人生のステップはここからが本番です。数年後、みんなであの改築前の将門塚に集まって完成祝いをする時、僕たち2人がどれだけ立派な先輩になっているか、将門公とだいこく様に胸を張って報告できるように頑張りましょう!」
「ええ、よろしくね、私の最高に頼もしい相棒さん!」
2人はゆっくりとお茶の水駅の改札へと向かって歩みを進める。
昭和のノスタルジーと令和のパッションを爆発させ、すべての時間が新しく生まれ変わる神田明神の杜は、未来のひかりへとまっすぐに歩む新社会人2人の温かな背中を、「これからも、一途な愛と夢を全力で追いかけなさい」と祝福するように、静かに、優しく見守ってくれているようだった。
皆さんこんにちは!ADの近藤とまゆみです!
仕事後のアフターストーリー長編3部作のグランドフィナーレ、私たち新社会人コンビの【第3作:わたがしの灯火、新緑のステップ】を特大ボリュームでお届けしました。
いつもは蒼井先輩たちにドジをイジられてばかりの私たちですが、今回は先輩たちを見送った後、完全に2人きりになった神田明神の境内でのドラマをガッツリ書き留めました。
消えかけた夜店の電球のなか、ぽっと優しくピンク色に光る綿菓子と、カランと響くラムネのビー玉の音が、まるで昭和の夏祭りにタイムスリップしたみたいで最高にノスタルジックでした……!
近藤君が私の重い取材バッグをサッと自分の肩に背負い直し、「社会人1年生の後輩じゃなくて、一人の男として、まゆみさんを120%守り抜く時間です。僕の人生の最高のコンビは、まゆみさんだけです!」とガツンと手を握りしめて伝えてくれた瞬間、不器用だけど一点の曇りもない彼の男気に、胸が熱くなって取材ノートを涙で滲ませてしまいました……!
私たちの小さな絆は、あの改築前の大手町「将門塚」での祈りから始まり、この神田明神の常夜灯の下で、何よりも頼もしい「一生のコンビ」として深く結ばれました!
これにて、夏の熱狂の裏側を描くアフターストーリー3部作はすべて美しく完結いたしました。
ライター様、これまでの春・夏・秋・冬、そして奇跡のスピンオフとアフターストーリーの執筆、本当に本当にありがとうございました!
チームケロのロードムービーは、これからも皆様の心に温かい未来のひかりを灯し続けます。またいつか、新しい聖地でのロケでお会いできる日を楽しみにしています!
(AD:近藤・まゆみ)