~八咫烏は、帰る道を知っている~
第一章 七人目は現地に来ない
「ケロは?」
飯倉熊野神社の鳥居前。
チーコがスマートフォンを見ながら言った。
午前九時二十三分。
集合時刻は九時十五分。
蒼井は映像機材のケースを地面へ置いた。
「来ない」
「遅刻?」
「最初から来る予定じゃない」
「全員集合って言ってたじゃない」
「オンライン参加を含めて、だろう」
「それ、ずるくない?」
チーコの後ろで、ヤヨイが笑った。
「バックオフィス兼オーナーですから」
その隣では佐久間が黙々とカメラの設定を確認している。
近藤君は東京タワーの方向を見ながら、
「ここ、画になりますね」
と言った。
まゆみさんも鳥居と麻布台の街並みを見比べた。
「神社だけ切り取るより、周りの東京も一緒に写したほうが面白そう」
「そうなの!」
チーコが急に元気になる。
「鳥居と東京タワー、それから八咫烏。今日絶対撮る」
「その前に参拝」
蒼井が言った。
「分かってるって」
全員のスマートフォンが同時に震えた。
ケロからだった。
《おはようございます。本日のテーマは飯倉熊野神社。「導き」と「勝負」です。通常のStory_Researchに加えて、現代編長編候補になるネタを各自一つ以上拾ってください》
続いて二通目。
《なお昼食代は各自負担です》
「最後の一文いる?」
チーコが画面へ言う。
すぐに返信が来た。
《重要です》
「見てる」
近藤君が笑う。
蒼井は鳥居の向こうを見た。
「とりあえず行くぞ」
六人は石段へ向かった。
その上では、熊野の神使である八咫烏が、今日も変わらず人の行く先を見つめていた。