終章 同じ方向
編集会議が終わったあと。
チーコと蒼井は飯倉熊野神社へ追加の写真を撮りに戻った。
夕暮れ。
昼間より車のライトが目立つ。
東京タワーにも灯りがついている。
「今日は二人だけだね」
チーコが言った。
「追加撮影だからな」
「チーム全員も楽しいけど、静か」
「チーコがいる時点で静かではない」
「失礼」
鳥居の前。
八咫烏。
チーコはカメラを構えた。
「今回、八咫烏は誰を導いたと思う?」
「悠斗」
「それだけ?」
蒼井は少し考えた。
「高瀬家」
「うん」
「俺たち」
チーコがカメラを下ろした。
「私たちも?」
「最初はサッカー御守の記事のつもりだった」
「ああ」
「結果的に、勝つことより帰ることの話になった」
「十番稲荷でも帰る話だったね」
「そうだな」
「私たち、帰る話ばっかり」
蒼井は少し笑った。
「帰る場所があるからだろう」
チーコは一瞬黙った。
「蒼井」
「何だ」
「チームケロって、帰る場所になるかな」
「仕事場だぞ」
「そういう現実的なことじゃなくて」
蒼井は鳥居の向こうを見る。
「なるんじゃないか」
「六人?」
「ケロも入れれば七人」
「七人か」
チーコは笑った。
「七福神みたい」
「誰がどの神だ」
「ケロは大黒天」
「なぜ」
「お金を管理してる」
蒼井が吹き出した。
「本人に言うなよ」
「絶対言う」
「やめろ」
チーコはカメラを持って歩き出した。
数歩進んで振り返る。
「蒼井、帰ろう」
「ああ」
「駅、こっち?」
「逆」
「え?」
蒼井が反対方向を指す。
チーコは慌てて戻った。
「八咫烏いるのに!」
「八咫烏のせいにするな」
「蒼井が導いてよ」
「いつもやってる」
「最後まで?」
蒼井は少しだけ歩調を緩めた。
「同じ方向なら」
「またそれ」
「嫌か?」
チーコは首を横へ振った。
「嫌じゃない」
二人は並んで歩き出した。
背後に飯倉熊野神社。
鳥居の八咫烏。
そして東京タワーの灯り。
人は、いつも正しい道を歩けるわけではない。
勝つこともあれば、負けることもある。
迷うことも、立ち止まることもある。
だからきっと、道しるべが必要になる。
鳥であったり。
古い御守であったり。
一枚の写真であったり。
仲間であったり。
そして時には。
何も言わず、自分と同じ速さで歩いてくれる誰かであったりする。
八咫烏は、帰る道を知っている。
けれど、その道を誰と歩くのか。
そこだけは、まだ神様にも決められない。
少なくともチーコは、そう思っていた。
今のところは。
隣を歩く蒼井には、まだ言わないけれど。