第七章 勝って帰るの意味
夕方、六人は再び飯倉熊野神社へ集まった。
悠斗も来た。
ケロはスマートフォンの画面越し。
蒼井が資料を整理して説明する。
「確認できたことと、伝聞を分ける」
悠斗は緊張した顔で聞いていた。
「曽祖父の隆吉さんが出征したこと。家族に神符が残っていること。出征時期。これは確認できる」
佐久間が続ける。
「古写真に高瀬隆吉さんとされる人物が写っています。ただし、手にしている物が牛王神符かどうかは断定できません」
ヤヨイ。
「地域証言では、子どもたちにボールを蹴る遊びを教えていたという話があります」
近藤君。
「そして弟さんが復員し、遺品を家族へ返したという伝承があります」
まゆみさん。
「そのとき、『兄は勝つことより帰ることを気にしていた』と話したとも伝わっています。ただし、これは伝聞です」
最後に蒼井が言った。
「だから、『勝って帰る』の意味を完全に知ることはできない」
悠斗は古い神符を見た。
「結局、分からないんですね」
「分からない」
蒼井ははっきり言った。
少年は少しがっかりした顔をした。
「でも」
チーコが口を開く。
全員が見る。
「本人が何を思って書いたかは分からないけど、この紙が家に帰ってきたのは本当なんでしょ」
「うん」
「それを家族がずっと持ってた」
「はい」
「そして今、あなたが持ってる」
悠斗は神符を見る。
「曽祖父さんが勝ったか負けたか、私には分からない。でも」
チーコは続けた。
「この約束は、途中で消えなかったんじゃないかな」
「約束?」
「帰るっていう約束」
悠斗は黙った。
蒼井が言う。
「君は、次の試合で何に勝ちたい」
「レギュラーに戻りたいです」
「それは正直でいい」
「でも、チームにも勝ってほしい」
「その二つがぶつかったら?」
悠斗は答えられなかった。
蒼井は八咫烏を見上げた。
「八咫烏は、代わりに歩かない」
悠斗も見る。
「方向を示すだけだ」
チーコが横から言った。
「蒼井もね」
「俺を烏にするな」
少し空気が緩んだ。
悠斗が笑う。
その笑顔を見て、まゆみさんも笑った。