金龍山 浅草寺(東京・台東区浅草)短編ダブルストーリー

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【第一部:佐久間&ヤヨイ 取材短編】

『影向堂の福風と雷門の隠れ龍——千四百年の祈りに重ねる筆先』

浅草・雷門前。朱塗りの大提灯の下を行き交う世界中の参拝客と、仲見世通りから漂う人形焼や雷おこしの香ばしい匂い。 若草色の着物に身を包んだヤヨイは、丸眼鏡の位置を指先で直しながら、雷門の真下で立ち止まり上を見上げた。

「見て、佐久間君! この重さ七百キロもある大提灯の真下……見落とされがちだけれど、底にこんなにも見事な木彫りの龍神様が彫られているなんて! 千四百年の歴史の入り口から、もう江戸の職人魂と神気に圧倒されちゃうわ!」

木々模様のシックなジャケットを着こなす佐久間は、ヤヨイの重い取材機材バッグを片肩へ担ぎ直しながら、穏やかに目を細めた。

「ええ。推古天皇の御代、隅田川から示現された聖観世音菩薩の絶対秘仏の慈悲から始まった浅草寺。その境内西側に佇む『影向堂(ようごうどう)』にこそ、浅草名所七福神の大国天様がお祀りされています」

ふたりは常香炉の清らかな煙を浴び、本堂へ参拝したあと、静けさに包まれた影向堂へ。 十二支の守り本尊が並ぶ堂内、外陣に鎮座する大国天座像の前に並び、二拝二拍手一拝。打ち出の小槌を掲げ、米俵に乗った大国天の柔和な笑みに、ヤヨイは深く手を合わせた。

「五穀豊穣と商売繁昌、そして人々の心を豊かにする福徳の神様……。佐久間君、浅草のこの途方もない活気も、大国天様の福風が吹き抜けているからこそね」

「そうですね。そして、その活気と歴史の息づかいを言葉に変えられるのは、ヤヨイさん、あなただけです。どんなに大きな時代の波が来ても、僕があなたの言葉の価値を一番近くで守り、広げてみせます」

佐久間の揺るぎない眼差しに、ヤヨイは頬をほんのり染めながら、愛用の取材ノートをぎゅっと抱きしめた。

【第二部:ちーこ&蒼井 スピンオフ・Private短編】

『舟和の芋ようかんと観音百籤——大黒様の小槌が振るう奇跡』

「わぁぁ〜っ! 蒼井さん見て! 影向堂のまわり、池があって石橋があって、浅草寺のど真ん中なのにすっごく静かで落ち着くね!」

休日の午後。私服のボアジャケットにスニーカーを合わせたちーこは、影向堂の前に広がる庭園を眺めて目を輝かせていた。

「ああ。本堂や仲見世の賑やかさとは打って変わって、ここは時間がゆっくり流れてるな。……ほら、大黒様にお参りするぞ」

蒼井はちーこの背中を優しく促し、ふたりで並んで大国天像に手を合わせた。 真剣な顔で手を合わせ終えたあと、ちーこが駆け寄ったのは境内の「おみくじ(観音百籤)」の筒。

「浅草寺のおみくじって、昔ながらの割合だから凶が出やすいって有名なんだよね! ……いっくよ〜、えいっ!」

カラカラと音を立てて出てきた棒の番号を引くと、そこには鮮やかな『大吉』の文字。

「やったぁぁぁ! 大吉! 『願望叶い、良き相棒とともに財宝を得る』って書いてある! 蒼井さんは?」

「……『凶』だ。『油断大敵、慎重に行動すべし』。まあ、確率通りだな」

「あはは! 蒼井さん凶引いちゃったの!? でも大丈夫! ほら!」

ちーこはバッグから取り出した『浅草 舟和』の焼きたて芋ようかんの包みを広げ、黄金色の角切りようかんを蒼井の口元へ差し出した。

「はい、蒼井さんあーん! 大黒様のお小槌みたいに、この美味しいお芋を私が食べさせてあげるから、蒼井さんの凶は私が大吉に変えちゃうもんね!」

「……人前で『あーん』は恥ずかしいって(と言いつつ、差し出された芋ようかんを頬張る蒼井)。……甘くて美味いな」

「でしょ〜! 凶が出ても、私が隣で笑わせてあげるから安心してくださいっ!」

満面の笑みを浮かべるちーこの頭を、蒼井は照れ隠しにポンと小突いた。

「お前が隣で騒いでる限り、退屈してる暇も落ち込んでる暇もなさそうだな」

大国天の福徳と仲見世の甘い香りに包まれながら、ふたりの休日デートはどこまでも明るい笑い声とともに続いていくのだった。