矢先稲荷神社(東京・台東区松が谷)短編ダブルストーリー

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【第一部:佐久間&ヤヨイ 取材短編】

『百頭の名馬が見守る天井と、福禄寿の鶴——秋の矢先が射抜く言葉の的』

十一月中旬。浅草・かっぱ橋道具街のほど近く、松が谷の静かな住宅街に朱色の鳥居が秋の陽光を受けて鮮やかに佇んでいた。 黄葉の気配を映したからし色の羽織をまとったヤヨイは、丸眼鏡の位置を指先で直しながら、拝殿に上がって息をのんだ。

「まあ……! 佐久間君、見上げてみて! 格天井の一面すべてに、神話の時代から近現代まで、馬と武将の歴史がぎっしりと描かれているわ……!」

木々模様のシックなジャケット姿の佐久間は、取材ノートを開いたヤヨイの手元に影が落ちないよう寄り添い、静かに天井画を見上げた。

「海老根駿堂画伯が五年を費やして描いた『日本馬乗史』百枚の天井画です。ここは寛永年間、徳川家光公が建てた江戸三十三間堂の『通し矢』で、矢が向かう的の先――『矢先』に鎮座したのが始まり。狙った的を決して外さないという強い勝運と、志の歴史がこの天井に満ちています」

「矢先……! 迷わずまっすぐに的を射抜く力強さね。そして、その奥にいらっしゃる福禄寿様は……」

ヤヨイが拝殿の奥へ視線を向けると、白鶴を従えた福禄寿像が、穏やかで気品に満ちた笑みをたたえてふたりを見守っていた。

「福・禄・寿の三徳を授ける福禄寿様。佐久間君、迷わず目標を射抜く強い意志と、人を受け入れる福禄寿様の円満な心……どちらも、私たちの文章を読者に届けるために欠かせないものね」

「ええ。僕たちが言葉の矢で射抜く的は、読者の心です。ヤヨイさんの真摯な想いがまっすぐ届くよう、僕がその軌道をしっかりと支え続けます」

佐久間の澄んだ眼差しに、ヤヨイは胸の奥を温かく満たしながら、力強く頷いた。

【第二部:ちーこ&蒼井 スピンオフ・Private短編】

『かっぱ橋のホットラテと的射の矢——百枚の絵に誓う駆け抜ける未来』

「うわぁぁ〜っ! 蒼井さん見て見て! 天井にぎっしりお馬さんが並んでる! まるで歴史の美術館みたい!」

十一月の澄み切った秋晴れの午後。私服のニットベストにキャスケット帽を合わせたちーこは、矢先稲荷神社の拝殿で天井を指差し、瞳を輝かせていた。

「ああ。ヤヨイさんたちのレポート通り、圧巻だな。……聖徳太子から源義経、織田信長まで、日本の歴史を馬の視点から描いてる。構図のダイナミズムがすごい」

蒼井はプロの視点で天井画を感心そうに見つめたあと、隣で真剣に手を合わせているちーこに目を向けた。福禄寿と白鶴の像に向かって、ちーこは小さな両手をぎゅっと握りしめている。

「ちーこ、何をお祈りしたんだ?」

「えへへ! 『百頭のお馬さんみたいに、蒼井さんと一緒に立ち止まらずにカッコよく駆け抜けられますように』って! あとね、これ!」

参拝後、社務所で受けた「的射の矢守」を誇らしげに掲げるちーこ。

「狙った的を絶対に外さないお守り! 蒼井さんの分もお揃いで受けちゃった!」

「サンキュー。……大事にするよ」

蒼井は柔らかく笑って矢守を受け取ると、ちーこの手を引いてかっぱ橋道具街のカフェへ。テイクアウトした温かいカフェラテを片手に、秋風が吹き抜ける歩道を並んで歩き出す。

「蒼井さん、次の映像コンペも、この矢守パワーでど真ん中の一等賞を射抜いちゃおうね!」

「お前が隣でその笑顔を向けてくれるなら、的を外す気はしないな」

「〜〜〜っ! もう、蒼井さんったら急にそういう格好いいこと言うんだから……!」

赤くなった顔をラテの湯気で隠すちーこと、照れくさそうに歩幅を合わせる蒼井。秋深まる浅草の街に、ふたりの弾む足音が心地よく響き渡っていた。