【第一部:佐久間&ヤヨイ 取材短編】
『路地裏のビルに宿る入江の松と十四柱の神々——良夢札に託す物語』
水天宮から人形町二丁目の路地へ進むと、近代的なビルの1階部分に朱色の鳥居と提灯が美しく組み込まれた松島神社が姿を現した。 ヤヨイは丸眼鏡を直しながら、都会の風景と見事に調和した佇まいに感嘆の声を上げる。
「まあ……! ビルと神社が一体になっているけれど、鳥居をくぐると凛とした空気が流れているわね。佐久間君、ここも古い歴史があるの?」
木々模様のジャケット姿の佐久間が、ヤヨイの取材ノートを開きやすいように手元を空けながら穏やかに語る。
「創建は鎌倉時代以前に遡ります。かつて一帯が入江だった頃、松が生い茂る小島だったことから『松島』と名付けられました。江戸時代には元吉原の近くに位置したため、町民や芸妓、職人たちの多種多様な願いを受け止めるうちに、大国神をはじめ実に十四柱もの神々をお祀りする珍しい社となりました」
「十四柱もの神々……! 人々の切実な祈りをすべて包み込んできた、下町の懐の深さを感じるわ」
ふたりは並んで二拝二拍手一拝。大国神の福徳円満を祈願したのち、社務所で名物の「良夢札(夢枕のお札)」を受ける。
「枕の下に敷いて眠ると良い夢を見られるというお札……今夜はどんな物語の夢が見られるかしら」
「ヤヨイさんが紡ぐこれからの旅路が、すべて良き縁と結ばれる吉夢になりますよ。僕がその夢をひとつずつ現実に変えていきます」
佐久間の落ち着いた言葉に、ヤヨイは温かな笑みを浮かべ、大切にお札をバッグへと収めた。
【第二部:ちーこ&蒼井 スピンオフ・Private短編】
『サクサクコロッケと良夢札——同じ夢を見る約束』
「蒼井さん見て! ビルの真ん中に神社がすっぽり入ってる! まるでおしゃれな隠れ家みたい!」
休日の午後。私服のちーこは、松島神社の朱色の提灯を見上げて目を丸くしていた。
「ああ、ヤヨイさんのレポートにもあったが、昔はこのあたり一面が海で、松の島だったらしいぞ」
「へぇ〜! 海だった場所が、今はこんなに賑やかな下町になってるんだね!」
ふたりで並んで大国神に手を合わせ、商売繁昌と良縁を祈願。参拝を終えた蒼井は、授与所で「良夢札」をふたつ受け、ひとつをちーこに手渡した。
「ほら、ちーこ。枕の下に敷くといい夢が見られるお札だ」
「わっ、ありがとう! 蒼井さんはどんな夢が見たい?」
「そうだな……次の撮影現場で機材トラブルが一切起きない夢か、締め切りに追われない夢だな」
「もう〜っ! 蒼井さんったらプライベートでも仕事のことばっかり! 私はね、『蒼井さんと一緒に美味しいものを山ほど食べる夢』がいいな!」
そう言ってちーこが駆け込んだのは、すぐ近くの『人形町今半 惣菜本店』。揚げたてアツアツの名物すき焼きコロッケをふたつ買い、湯気立つ包みを蒼井に差し出す。
「ほら! 夢の前に、まずは現実で美味しいコロッケ半分こ!」
「……現実的だな。いただきます」
サクサクの衣を頬張り、牛肉の甘辛い旨味に顔をほころばせるふたり。ちーこがコロッケをもぐもぐしながら、いたずらっぽく笑う。
「ねぇ蒼井さん、今夜同じお札を敷いて寝たら……もしかして夢の中でもふたりでデートできるかな?」
「……かもな。じゃあ、夢の中でも置いていかれないようについてこいよ」
「うんっ! 夢の中でも蒼井さんの隣を絶対キープするね!」
下町の夕暮れ風の中、ふたりは温かいコロッケを手に、並んで次の路地へと歩き出した。