【第一部:佐久間&ヤヨイ 取材短編】
『白亜の免震社殿と宝生弁財天——芸事の神に捧げる言葉の調べ』
人形町の大通り沿いに現れる、白亜の美しい近代建築と伝統の木造美が融合した水天宮。階段を上がり、二階の広々とした空中境内へ足を踏み入れたヤヨイは、丸眼鏡の位置を直しながら感嘆の声を上げた。
「はぁ……っ! 都会の真ん中にこんなにも清々しい空間が広がっているなんて! 佐久間君、安産や子授けの総本山として名高い水天宮様だけれど、日本橋七福神の弁天様はどちらかしら?」
木々模様のジャケット姿の佐久間は、ヤヨイの重い取材機材を軽やかに片肩へ担ぎ直し、社殿左手に鎮座する朱塗りの社殿を指し示した。
「あちらに祀られているのが『宝生(ほうしょう)弁財天』です。久留米藩主・有馬頼徳公が加賀藩主との能楽の競い合いに臨む際、深く願掛けをして見事勝利を収めたことからその名がつきました。学業や利財だけでなく、芸事や表現の上達を司る特別な弁天様です」
「表現の上達……! 言葉を紡ぐ私たちにとって、これ以上ないほど心強い神様ね」
ふたりは朱塗りの宝生弁財天社へ進み、深く祈りを捧げた。続いて境内の名物「子宝いぬ」のブロンズ像へ。母犬と子犬を囲む十二支の文字を、ヤヨイが愛おしそうに撫でる。
「温かい命の繋がりを守る場所……見ているだけで心が洗われるわね」
「ええ。有馬公が江戸庶民に屋敷の門を開放した『情け有馬の水天宮』の心意気のように、あなたの文章もまた、多くの人々の心に寄り添う温かさを持っています。その表現力を、僕が最高の舞台へと引き上げ続けます」
佐久間の真摯な眼差しに、ヤヨイは頬をほんのり染めながら、力強く頷いた。
【第二部:ちーこ&蒼井 スピンオフ・Private短編】
『人形焼の湯気と子宝いぬ——レンズ越しの未来予想図』
「わぁぁ〜っ! 蒼井さん見て! 子宝いぬのまわりの自分の干支を撫でるとご利益があるんだって! 蒼井さんの干支、どこどこ?」
休日の水天宮境内。私服のロングダッフルコートを着たちーこは、子宝いぬの像のまわりをくるくると回りながら楽しそうにはしゃいでいた。
「おいちーこ、落ち着け。……ほら、俺の干支はそこだろ」
蒼井は苦笑いしながら自分の干支のレリーフを指先で撫で、続いてちーこの干支の文字にもそっと手を重ねた。ふたつの干支が並んで黄金色に輝く。
「えへへ、蒼井さんと私の干支、仲良くお隣同士だね!」
「そうだな。……ほら、次はお目当ての弁天様だぞ」
ふたりは朱色の宝生弁財天社へ向かい、並んで手を合わせた。芸事・芸能上達の神様の前で、ちーこは真剣な表情でぎゅっと目を瞑る。
「神様! 蒼井さんの作る動画が世界中で一番評価されますように……あと、私のカメラの腕ももっと上がって、蒼井さんの最高の相棒でいられますように!」
「……ちーこ、お前、声に出てたぞ」
「あっ! しまった〜っ! (顔を真っ赤にして両手で口を押さえるちーこ)」
参拝を終えて階段を降りたふたりは、水天宮前交差点の老舗『重盛永信堂』へ。 薄皮にあんこがぎっしり詰まった焼きたての人形焼を買い、湯気立つ包みを半分こする。
「ん〜っ! 皮がパリッとしてて、漉し餡が熱々で最高〜っ! 蒼井さん、はい、あーん!」
「自分で食えるって……(周囲を気にしつつも、差し出された人形焼を一口頬張る蒼井)。……美味いな」
「でしょ! 弁天様にもお祈りしたし、これからも蒼井さんの隣で、最高に美味しいもの食べて最高にカッコいい映像撮ろうね!」
冬晴れの水天宮の空に響くちーこの屈託のない笑顔。蒼井はその横顔を愛おしそうに見つめながら、温かい人形焼の包みをしっかりと握り直した。