「ねえ、蒼井」
「何だ」
「私たちも何か約束したことあったっけ」
「大学の頃?」
「うん」
「機材を借りたら返す」
「それはルール」
「締め切りを守る」
「それもルール」
「撮影に遅刻しない」
「私、そんな約束した?」
「した」
「覚えてない」
「だから守らないのか」
チーコは笑った。
「もっと大きいの」
「大きい?」
「いつか一緒に何かしよう、とか」
蒼井は少し考えた。
「ある」
チーコが目を丸くした。
「え?」
「大学卒業のとき」
「何て言った?」
「チーコが、『いつか自分たちの企画で、東京中を撮りたい』って」
チーコは黙った。
言った。
確かに言った。
卒業式のあと。
サークル仲間と別れた帰り道。
「蒼井、覚えてたの?」
「ああ」
「私は忘れてた」
「今やってるからな」
チーコは境内を見回した。
神社。
カメラ。
蒼井。
チームケロ。
自分たちの企画。
「本当だ」
「約束は果たしたな」
チーコは少し考えた。
「まだ」
「何が」
「東京中って言ったなら、まだ途中」
「そうだな」
「じゃあ、まだ返せないね」
「何を」
チーコは勝守のある授与所を見た。
「約束」
蒼井は少しだけ笑った。
「なら、最後までやればいい」
「一緒に?」
「最初からそのつもりだ」
また答えが早い。
チーコは困って、狛犬へカメラを向けた。
「チーコ」
「何?」
「顔が赤い」
「暑いから」
「九月だぞ」
「まだ暑いの!」
シャッターを切る。
向き合う狛犬。
どちらが勝っているのかは分からない。
でもきっと。
大事なのは、勝つことより。
逃げずに向き合い続けることなのだ。