湯島天満宮・短編ストーリー『サクラサク坂道、ファインダー越しの未来』

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第2章:感謝の門

坂を上りきると、湯島天満宮の象徴である表鳥居(銅鳥居)が、威風堂々とした姿で二人を迎えた。寛文七年に鋳造されたという歴史の重みを感じさせる渋い青緑色の鳥居の向こうには、すでに多くの参拝客が行き交っている。

「うわぁ……本当にすごい人ですね、先輩」

チーコが息を呑んだ。境内に溢れているのは、無事に受験を終えたであろう若者たち、そして彼らを支え続けた家族連れの姿だ。誰もが晴れやかな表情を浮かべ、境内を包む空気そのものが、まるで新学期を祝福する春の魔法にかかっているかのように明るいエネルギーに満ちている。

「4月の初めだからな。みんな、神様へ『ありがとうございました』って報告に来てるんだ。ほら、チーコ、参拝客の流れを邪魔しないようにカメラのポジションを意識しろ。まずは手水舎へ行くぞ」

「はい!」

二人は並んで手水舎の前へと進む。チーコは慣れた手つきで柄杓を取り、冷たい水を右手に、そして左手へと受けた。

「冷たっ……! でも先輩、冬のあの凍りつくような冷たさと違って、春の水はどこか優しくて、洗われていると心がシャキッとしますね」

「そうだな。季節は確実に変わってる。ほら、水滴をちゃんと拭いてから本殿に向かうぞ」

蒼井はそう言いながら、シネマカメラの録画ボタンをそっと押した。モニターの中に映し出されるのは、水滴を弾いて春の光に透き通るようなチーコの白い指先と、水を浴びて生き生きと輝く彼女の瞳。 アドバイザーとしての冷静な視線の裏で、蒼井の胸の奥がチクリと疼いた。普段はあんなに放っておけない女の子なのに、こうしてファインダーの近くにいる彼女は、時折、息を呑むほど瑞々しく、一人の大人の女性としての魅力を放ち始める。 蒼井は小さく首を振り、自分の動揺を振り払うようにして、本殿へと歩みを進めた。

チーコと蒼井の参拝ストーリー 湯島天満宮、手水舎前より
チーコと蒼井の参拝ストーリー
湯島天満宮、手水舎前より