湯島天満宮・短編ストーリー『サクラサク坂道、ファインダー越しの未来』

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第4章:光の末社巡り

「よ、 よし。本殿のカットは十分に押さえたな。次は境内の裏手にある摂末社を回るぞ。戸隠神社と笹塚稲荷さんへ向かおう」

蒼井は照れ隠しに少し声を張り上げると、早足で歩き出した。チーコも「あ、待ってください先輩!」と、重い機材バッグを揺らしながらその後ろ姿を追いかける。

本殿の賑やかさから少し離れた木陰のエリアに入ると、そこには新緑の鮮やかな芽吹きが始まっていた。戸隠神社の厳かな佇まい、そして笹塚稲荷神社の鮮やかな朱色の鳥居が連なる空間。春の柔らかな光の粒子が、木々の隙間からサラサラと降り注ぎ、地面に美しい木漏れ日の模様を描き出している。

「お稲荷さんの赤と、学生さんたちの紺色の制服、それに新緑の黄緑色が重なって、すごく瑞々しい絵になりますね!」

チーコは再びカメラを構え、夢中でファインダーを覗きながら、より良いアングルを探して一歩、また一歩と後ろへ下がっていく。しかし、彼女の視線はファインダーの中に集中しすぎており、背後にある摂社へ続く石段の段差に気づいていなかった。

「あ、この角度からなら、光が――」

チーコの足が、石段の角にかかる。ぐらりと、彼女の身体が大きくバランスを崩した。

「危ない、チーコ!」

蒼井はカメラを持ったまま、咄嗟に身体を投げ出すようにしてチーコの腕を掴み、その細い肩を自分の胸元へと強く引き寄せた。

ドサリ、と微かな音がして、二人の身体は戸隠神社の厳かな木陰の軒下で、隙間なく重なり合った。 間一髪、機材も身体も無事だった。しかし、二人の距離は、今までのロケのどれよりも近かった。

「……っ」

チーコの小さな肩のぬくもり、少し上がった息遣い、そして彼女の長い髪から漂う、春の雨上がりのような甘いシャンプーの香りが、ダイレクトに蒼井の胸に伝わってくる。 見上げれば、チーコの大きな瞳が、驚きと動揺で激しく揺れていた。その瞳の奥には、春の青空と、今までに見たことがないほど必死な自分の顔が映り込んでいる。

春の温かさとは明らかに違う、お互いの心臓が刻む、速くて熱い鼓動。恋人ではないはずの二人の間に、張り詰めた緊張感ともどかしいほどの愛おしさが最高潮に達する。

「す、すみません、先輩……。またやっちゃいました……」

チーコの顔が、見る見るうちに耳の裏まで真っ赤に染まっていく。

「……気をつけろって、いつも言ってるだろ。怪我したら、撮影どころじゃないんだからな」

蒼井は心臓の爆音を必死に抑え込みながら、掴んでいた彼女の手首をゆっくりと、名残惜しさを隠すようにして離した。二人は起き上がり、互いに服についた埃を払ったが、その指先はまだ、かすかに震えていた。

佐久間とヤヨイの取材ストーリー 湯島天満宮、拝殿前
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湯島天満宮、拝殿前