終章 向き合う人
その夜。
チーコは今日の写真を整理していた。
一本松坂。
鳥居。
拝殿。
御神木。
エミリーの母親の写真。
村瀬から届いた写真。
大神輿。
夕暮れ。
そして。
向き合う狛犬の間で、蒼井と自分が並んでいる写真。
一枚目。
二人とも正面。
二枚目。
チーコが蒼井を見る。
蒼井もチーコを見る。
シャッターの瞬間。
完全に目が合っている。
チーコはしばらく画面を見つめた。
削除しようかと思う。
やめた。
むしろ、星印をつけた。
お気に入り。
「何やってるんだろ、私」
一人で笑う。
写真のタイトル欄へ文字を入れた。
『向き合う勇気』
少し考える。
消した。
別の題名。
『向き合う人』
保存。
スマートフォンが鳴った。
蒼井から。
《写真、確認した?》
チーコの心臓が跳ねた。
《まだ》
嘘を送る。
すぐ返ってくる。
《二人で写ったやつ、送って》
チーコは固まった。
《なんで》
《記録》
《仕事用?》
少し間が空く。
《半分は》
チーコは画面を見た。
以前、蒼井が似た言い方をしたことがある。
半分は仕事。
では、残り半分は。
聞きたい。
でも聞けない。
チーコは写真を送った。
数秒後。
《いい写真だ》
《私が撮ったんじゃないけど》
《構図を決めたのはチーコだろう》
《そうだけど》
《残しておこう》
チーコは、その一文を何度も見た。
残しておこう。
写真のこと。
今日の取材のこと。
それとも。
もっと別の何か。
分からない。
だから今は、勝手に答えを決めないことにした。
麻布氷川神社の狛犬のように。
逃げずに。
急がずに。
ただ向き合っていけばいい。
きっと、そのうち分かる。
チーコは新しい勝守を机の上へ置いた。
そして小さく言った。
「負けないからね」
誰に向けたのか。
自分でも、まだよく分からなかった。