麻布氷川神社・長編ストーリー【チーコと蒼井の現代編】

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第九章 同じ坂道

麻布氷川神社、御朱印
麻布氷川神社、御朱印

麻布十番へ戻る途中。

二人は一本松坂を下っていた。

朝とは反対方向。

「朝はここから始まったね」

「ああ」

「昔の神社があった場所から、今の神社へ」

「ああ」

「帰りは、今の神社から昔の場所へ戻る」

「正確には駅へ戻る」

「分かってる。情緒の話」

「はいはい」

チーコが笑った。

「でも、不思議だよね」

「何が」

「神社も場所が変わる。人も変わる。街も変わる。でも、何か残る」

「信仰とか」

「約束とか」

「記憶とか」

「人との関係とか」

蒼井が少しだけこちらを見る。

「それは、残そうとすればな」

「残そうとしないと消える?」

「たぶん」

チーコは少し考えた。

「じゃあ、私たちの関係も?」

「何だ急に」

「大学からずっと一緒だけど。仕事変わったり、環境変わったりしてるじゃない」

「ああ」

「残そうとしてるのかな」

蒼井は足を止めた。

チーコも止まる。

坂の途中。

少し下に麻布十番の街。

「俺は、そうしてる」

「え?」

「だから一緒に仕事してる」

「仕事だけ?」

聞いてから、チーコは後悔した。

蒼井はすぐには答えなかった。

沈黙。

長い。

チーコの心臓がうるさい。

「今は」

蒼井が言った。

「今は?」

「仕事だけじゃない、とだけ言っておく」

チーコは動けなかった。

「それ、どういう」

「まだ勝ってない」

「何に?」

「自分に」

そう言って蒼井は歩き出した。

「待って!」

チーコが追いかける。

「途中で終わらせないでよ!」

「今日はここまで」

「ずるい!」

「チーコがいつもやってる」

「私はそんなこと」

「やってる」

「例えば?」

「一般論って言って逃げる」

言い返せない。

チーコは頬を膨らませて蒼井の隣へ並んだ。

「じゃあ、次はちゃんと言って」

「ああ」

「約束?」

蒼井は少しだけ笑った。

「約束」