麻布十番稲荷神社・参拝長編ストーリー【チームケロ現代編】

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第八章 宝船に乗るもの

取材から一か月後。

チームケロの記事が公開された。

タイトルは、

『十番稲荷神社の宝船――失われた絵と、帰る場所を求めた人々』

史実として確認できる内容。

戦災で失われた宝船の絵。

旧竹長稲荷神社の印影。

杉浦家に残された写真。

少年に関する手紙。

祖父の推測。

すべてを分けて記載した。

八人目が誰なのか、結論は出さなかった。

それでも記事には多くの反応が寄せられた。

《宝船は幸運を運ぶだけでなく、人を帰す船なのかもしれません》

《帰る場所は、生まれた場所とは限らないと思いました》

《かえるのお守りを受けに行きたいです》

《家族と港七福神を巡ります》

年が明けた。

再び港七福神めぐりの季節が来た。

チームケロは七番出口に集合していた。

「今年こそ全部回るわよ」

チーコが専用台紙を掲げる。

「撮影込みで回ると、四時間以上かかる」

蒼井が言う。

「大丈夫。かりんとうドーナツもあるし」

「最初から食べるな」

佐久間とヤヨイは、すでに行程表を確認している。

近藤君とまゆみさんは、記事読者との交流企画の準備をしていた。

ケロはオンライン参加だった。

《みなさん、予定どおり進めてください。なお、予算は》

「増えない」

全員の声がそろった。

画面の向こうで、ケロが満足そうにうなずいた。

参拝を終えたあと、チーコは宝船の前に立った。

七福神。

船尾の余白。

そこに八人目がいたのかどうかは、今も分からない。

「何を見てる」

蒼井が隣へ来た。

「誰が乗るのかなって」

「何に」

「宝船」

「七福神だろう」

「それ以外」

蒼井は少し考えた。

「願いを持っている人」

「帰りたい人も?」

「ああ」

「蒼井は、どこへ帰りたい?」

突然の問いに、蒼井はチーコを見た。

「今の家」

「現実的」

「それ以外に何を答えればいい」

「昔の大学とか、思い出の場所とか」

「場所だけが帰る先とは限らない」

チーコは目を瞬いた。

蒼井はもう一度宝船を見た。

「仕事が終わったあと、気を使わずに一緒に歩ける相手がいる場所も、帰る場所に近い」

「それって」

「集合時間に遅れず、撮影中に勝手に消えず、機材を雨に濡らさない相手なら、なおいい」

「全部、私への注意じゃない」

蒼井は笑った。

チーコは頬を膨らませながらも、隣を離れなかった。

石段の下では、大小二体のかえるが並んでいた。

大きいほうと、小さいほう。

親子か、夫婦か、仕事仲間か。

答えは分からない。

ただ、長い間、同じ場所で同じ方向を見ている。

それだけは確かだった。

「チーコ」

「何?」

「行くぞ。次の七福神が待ってる」

「宝船は?」

「最後まで一緒に回るだろう」

チーコは宝船の御守を手に、蒼井の隣へ並んだ。

その後ろを、佐久間とヤヨイ、近藤君とまゆみさんが続く。

七人目のケロは、画面の向こうから進行を確認している。

宝船に乗る人数は、七人とは限らない。

願いを持つ人。

帰りたい人。

誰かと同じ場所へ向かいたい人。

そうしたものを、船は黙って乗せていく。

麻布十番の朝。

七番出口のすぐ隣で、チームケロの新しい一年が始まった。