第三章 六人の視点
チームケロは二組に分かれた。
チーコと蒼井は境内の撮影。
佐久間とヤヨイは神社の歴史資料と周辺の聞き取り。
近藤君とまゆみさんは、港七福神を巡る参拝者への取材を担当した。
チーコは石段の下から宝船を撮影していた。
ファインダー越しに見ると、七福神はひとかたまりになっている。
人の顔までは細かく分からない。
しかし、船首から船尾まで視線を動かすと、ひとつだけ妙なことに気づいた。
「蒼井」
「何だ」
「宝船の後ろ側、少し不自然じゃない?」
「具体的に」
「何かを置くための空間みたいに見える」
蒼井は宝船を見上げた。
「石像の構造上の余白だろう」
「さっきの八人目と関係あるかも」
「何でも結びつけるな」
「映像を作る人が、想像力を否定してどうするの」
「想像と推測は違う」
チーコは唇を尖らせながら、別の角度へ移動した。
「蒼井、そこに立って」
「なぜ」
「大きさの比較」
「巻き尺を使え」
「人が入ったほうが分かりやすい」
蒼井は言われた場所へ立った。
チーコが何枚か撮る。
「もう少し宝船を見て」
「こうか」
「そう。ちょっと寂しそうな感じで」
「なぜ俺が寂しそうに宝船を見る必要がある」
「物語の素材」
「取材だろう」
「取材から物語が生まれるの」
蒼井が仕方なく宝船を見上げた。
その横顔を、チーコは一枚だけ撮った。
宝船と七福神よりも、そちらのほうがよく撮れていた。
一方、佐久間とヤヨイは、麻布十番商店街の古くからの店舗を訪ねていた。
「宝船の印ですか」
店主は首を捻った。
「昔は正月になると、あの印を楽しみにしていた人が多かったよ。今もそうだけどね」
「八人目について聞いたことはありませんか」
ヤヨイが尋ねる。
「八人目?」
店主は笑った。
「七福神なのに八人いたら、七福神じゃなくなるだろう」
「宝船を操る船頭がいた、というような話です」
佐久間が補足した。
店主は少し考え込んだ。
「船頭ねえ。そういえば、昔の宝船の絵には、船を引く者が描かれることもあると聞いたことはある。でも十番稲荷の話かどうかは分からない」
「誰から聞きました?」
「亡くなった祖父かな。麻布の昔話は、どれも途中で混ざるんだよ」
ヤヨイはその言葉を手帳に書いた。
途中で混ざる。
伝説は、長く語られるうちに別の話とつながっていく。
がま池の伝説も、火事を防いだ大がえると、上の字御守の話が重なって伝わっている。
宝船にも、失われた別の話が混ざっているのかもしれない。
近藤君とまゆみさんは、専用台紙を持つ年配の男性に話を聞いていた。
「港七福神は、今年で二十回目だよ」
男性は笑った。
「毎年ですか」
「そう。全部回ると、今年も始まったなと思う」
「十番稲荷神社の宝船に、何か思い出はありますか」
まゆみさんが聞く。
男性は少し遠くを見るような目をした。
「昔、娘と回ったことがある。まだ小学生だった。あの子は七福神より、かえるばかり見ていたよ」
「今も一緒に?」
「娘は海外に住んでいる。孫が生まれてから、なかなか帰ってこない」
「寂しいですね」
「いや、元気ならいい」
男性は台紙の宝船を撫でた。
「宝船は、帰ってくる人を乗せる船でもあるんだよ」
まゆみさんはその言葉を聞き逃さなかった。
「それは、どなたかから聞いた話ですか」
「いや、今、思っただけだ」
男性は照れたように笑った。
取材のあと、まゆみさんは近藤君へ言った。
「帰ってくる人を乗せる船」
「物語になりそうですね」
「でも、誰かが先に考えていたような気がします」
「誰か?」
「分かりません。ただ、あの古写真の八人目も、帰る人なのかもしれない」