第五章 消えた神社の記憶
佐久間の調査で、写真は昭和初期に撮影された旧竹長稲荷神社周辺のものと分かった。
同じ構図の写真が、区の郷土資料に残っていた。
ただし、封筒に入っていた写真は複写ではなく、古い印画紙を使った再プリントらしい。
「元のネガを持っている人物がいる可能性があります」
佐久間が報告した。
「資料館にはネガがないの?」
チーコが聞く。
「写真のみです。寄贈者は故人で、遺族の連絡先は公開されていません」
ケロがオンライン会議の画面越しに言った。
「こちらでも古い新聞記事と地域資料を確認しました。竹長稲荷神社の周辺には、戦前、写真館が一軒あったようです」
「写真館?」
チーコが反応する。
「はい。店名は永坂写真館。空襲で焼失し、戦後は再建されていません」
「印影資料に書かれていた『永坂』と同じですね」
ヤヨイが言う。
ケロが画面上でうなずいた。
「偶然とは考えにくいです」
蒼井が腕を組む。
「写真館の関係者を探せるか」
「戦後の名簿を確認中です」
「ケロ、仕事が早い」
チーコが感心すると、ケロは真顔で答えた。
「オーナーですから」
「予算は増やさないのに」
「予算管理もオーナーの仕事です」
会議のあと、佐久間とヤヨイは永坂写真館について調べることになった。
近藤君とまゆみさんは、旧竹長稲荷神社に関する地域の証言を集める。
チーコと蒼井は、もう一度境内を撮影することにした。
夕方が近づき、参拝者は少し減っていた。
チーコは狛犬の前に立った。
「この狛犬は、地中に埋められて助かった」
「ああ」
「宝船の絵は焼けた」
「ああ」
「写真は残った」
蒼井はチーコの隣へ立った。
「何が言いたい」
「残るものと、残らないものの違いって何だろう」
「偶然と、人の意思だ」
「それだけ?」
「狛犬を埋めた人がいた。写真を撮った人がいた。残そうとした人がいたから、残った」
「じゃあ、宝船の絵は」
「残そうとした人がいなかったとは限らない。間に合わなかっただけかもしれない」
チーコは狛犬へカメラを向けた。
「写真って、残すために撮るのかな」
「それだけじゃないだろう」
「じゃあ、何のため?」
蒼井は少し考えた。
「忘れたくないと思った瞬間を、自分の外へ置いておくためだ」
チーコはファインダーから顔を上げた。
「今の、いい言葉」
「今、思いついた」
「私の真似?」
「違う」
「使わせてもらおうかな」
「著作権料を払え」
「予算は増えないってケロが言ってた」
チーコは笑いながらシャッターを切った。
その写真には、狛犬の向こうに蒼井が少しだけ写り込んでいた。