第六章 八人目の正体
翌日、佐久間とヤヨイは一人の女性を訪ねた。
八十代の杉浦秋子。
永坂写真館を営んでいた人物の孫だった。
杉浦は小さなアルバムを机へ置いた。
「祖父が撮った写真です。空襲の前、神社や町の人をよく撮っていたそうです」
アルバムには、旧竹長稲荷神社、末広神社、祭礼、商店街の写真が並んでいる。
その中に、宝船の絵を撮影した一枚があった。
「これです」
ヤヨイが身を乗り出す。
写真は、神社に残されている複写より鮮明だった。
七福神を乗せた船。
そして船尾に、一人の子どもが描かれている。
「八人目……」
佐久間が呟く。
杉浦は写真を見た。
「祖父は、これは七福神ではないと言っていました」
「どういう意味ですか」
「宝船の絵を描いた人が、誰かを後から加えたのだろうと」
「誰を?」
「分かりません。ただ、祖父は『船に乗れなかった子ども』と呼んでいました」
杉浦は古い手紙を取り出した。
差出人は、竹長稲荷神社の氏子だった人物。
手紙には、震災や火事、貧困で家族を失った子どもたちのために、神社で炊き出しを行った記録が書かれていた。
その中に、一人の少年の話があった。
少年は地方から奉公に出され、麻布で働いていた。
しかし主人の家が火事になり、帰る場所を失った。
神社の世話で別の商家へ引き取られたが、その後の消息は分からない。
少年は宝船の絵を見るたびに、
「この船なら、帰る場所まで連れていってくれるかな」
と話していたという。
「絵の子どもが、その少年だという証拠はありません」
杉浦は言った。
「祖父の推測です。でも祖父は、宝船には七福神だけでなく、帰りたい人の願いも乗っていると言っていました」
佐久間は手紙を慎重に撮影した。
「最近、神社へ写真を置きましたか」
杉浦の表情が変わった。
「いいえ」
「古い印影資料について、何かご存じですか」
杉浦は少し黙ったあと、首を横に振った。
「知りません」
しかしヤヨイは、その返事が完全なものではないと感じた。
帰り道、彼女は佐久間に言った。
「何か隠しています」
「同感です」
「どうしてでしょう」
「印影資料を持ち出した本人か、本人を知っている」
ヤヨイは丸眼鏡を押し上げた。
「でも、写真をかえるの後ろへ置いた人は、悪意があるようには思えません」
「悪意がなくても、持ち出しは持ち出しです」
「佐久間さんは真面目ですね」
「ヤヨイさんが柔らかすぎるんです」
「そこがいい組み合わせです」
佐久間は返事をしなかった。
だが少しだけ、歩く速さをヤヨイに合わせた。