麻布十番稲荷神社・参拝長編ストーリー【チーコと蒼井の現代編】

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第四章 写真にない人

千鶴子が帰ったあと、チーコは撮影した写真を見返していた。

「いい写真だ」

蒼井が言った。

「珍しく素直」

「事実だからな」

「私が撮ったから?」

「被写体と構図がよかった」

「私の腕は?」

「含まれている」

「もっと分かりやすく褒めて」

蒼井は答えなかった。

チーコは次の写真へ送った。

そのとき、妙なものに気づいた。

千鶴子の背後、石段の途中に、人影が写っている。

黒っぽい服。

傘を差していない。

顔は見えない。

「この人、いた?」

蒼井が画面を見る。

「参拝者だろう」

「でも、この前後の写真には写ってない」

連写した写真を確認する。

一枚目にはいない。

二枚目にいる。

三枚目にはいない。

「通り過ぎただけだ」

「一秒もないのに?」

「階段を横切った可能性はある」

チーコは拡大した。

人物は千鶴子のほうを見ているようだった。

そして手に、白い封筒のようなものを持っている。

「気になる」

「追いかけようがない」

「境内にまだいるかも」

チーコが立ち上がる。

蒼井はため息をつきながら機材を持った。

「一人で動くな」

二人は境内と周辺を探した。

だが黒い服の人物は見つからなかった。

代わりに、かえるの石像の後ろに白い封筒が置かれていた。

表には、千鶴子の名前が書かれている。

「触らないで」

チーコが言う。

「さっき俺が言う台詞だ」

「学習したの」

神社の担当者へ知らせ、封筒を確認してもらった。

中には短い手紙と、古い写真が一枚入っていた。

写真には、若い男性が写っている。

千鶴子の祖父によく似ていた。

だが軍服ではない。

戦後の服装だった。

手紙には、こう書かれていた。

《この写真を、三浦家へ返してください。帰ることのできなかった人から預かったものです》