麻布十番稲荷神社・参拝長編ストーリー【チーコと蒼井の現代編】

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第七章 映像の中の空席

数日後、蒼井は映像の編集を始めた。

テーマは「帰る場所」。

アジサイの石段。

かえるの石像。

戦災を免れた狛犬。

千鶴子が古写真を持つ姿。

北村から提供された、北海道の写真館。

家族が失った時間。

ただし千鶴子と北村の会話は、本人たちの希望で映像には入れなかった。

代わりに、二枚の写真だけを映した。

出征前の兄。

戦後の弟。

別々の時間を生きた兄弟。

最後に、一つの画面の中へ並べる。

チーコは編集室の後ろから画面を見ていた。

「いいね」

「まだ仮編集だ」

「最後はどうするの」

「かえるの石像で終える」

「二体とも?」

「ああ」

「親子みたいに?」

「兄弟だろう」

「この作品ではね」

蒼井はタイムラインを操作した。

「ナレーションを考えている」

「どんな?」

「帰る場所は、待っている人がいる場所とは限らない」

チーコは少し首を傾げた。

「否定から始まるの?」

「続きがある。帰る場所は、自分の記憶を受け取ってくれる人がいる場所かもしれない」

チーコは画面を見た。

「いいと思う」

「珍しく素直だな」

「事実だから」

「俺の真似か」

「違う」

蒼井が笑った。

編集室には、機材の小さな作動音だけが残った。

しばらくして、チーコが言った。

「蒼井には、帰る場所ある?」

「家がある」

「そういう意味じゃなくて」

「質問が曖昧だ」

「仕事で疲れたときとか、何か失敗したときとか、何も考えずに戻れる場所」

蒼井は画面から目を離さなかった。

「大学の映像サークルの部室」

「もうないわよ」

「だから過去形だ」

「今は?」

蒼井は少し黙った。

「今は、まだ決めていない」

「ふうん」

チーコはそれ以上聞かなかった。

だが、なぜか少しだけ寂しかった。