第五章 帰ることのできなかった人
千鶴子へ連絡すると、彼女はすぐに戻ってきた。
写真を見た瞬間、顔色が変わった。
「この人は、祖父ではありません」
「違うんですか」
「祖父の弟です」
祖父には、二歳下の弟がいた。
戦時中に疎開先で家族と離れ、その後、行方が分からなくなった。
戦死したという話もあったが、正式な記録は確認できなかった。
「祖母は、弟さんのことを話していましたか」
蒼井が聞く。
「ほとんど話しませんでした。祖父もです。ただ、家族の写真に一人だけ、名前の分からない青年がいて、それが弟ではないかと思っていました」
写真の裏には、昭和二十五年の日付と、住所が書かれていた。
北海道の小さな町。
「戦後まで生きていた」
チーコが言った。
千鶴子は写真を握りしめた。
「でも、どうして今になって」
手紙には差出人がない。
写真を置いた人物も分からない。
ただし封筒の紙は新しく、最近用意されたものだった。
蒼井は住所を調べた。
現在は別の建物になっている。
住民記録を一般人が自由に追うことはできない。
それでも、古い電話帳や新聞記事を調べると、住所にはかつて「北海写真館」という店があった。
「また写真館」
チーコが言った。
「偶然かもしれない」
蒼井は答えたが、表情は真剣だった。
北海写真館の主人は、終戦後に東京から移住した人物だった。
名前は三浦清一。
千鶴子の祖父の弟と一致する。
「生きていたんですね」
「少なくとも昭和二十五年までは」
蒼井が言う。
さらに調べると、写真館は昭和五十年代まで営業していた。
主人には娘が一人いた。
現在の住所までは分からない。
「写真を置いたのは、その娘さんかもしれない」
チーコが言う。
「なぜ直接、千鶴子さんへ渡さなかった」
「家族の話に入るのが怖かったとか」
「なら、どうして千鶴子さんが今日来ると知っていた」
その問いに、三人は黙った。
千鶴子は古写真を見た。
「私は先週、神社へ電話しました。祖父母の写真を撮り直したいと相談して」
「その話を知っている人は?」
「神社の方と、私だけです」
担当者に確認すると、電話を受けた職員は、相談内容を境内の関係者数名へ伝えていた。
その中に、期間限定で手伝いに来ている女性がいた。
名前は、北村香織。
六十代前半。
住所は北海道。