飯倉熊野神社・長編ストーリー【チーコと蒼井の現代編】

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第三章 帰ってきたのに帰らない人

岡崎から許可を得て、蒼井は写真の情報を調べ始めた。

裏面には、

《昭和二十三年 門司》

と書かれている。

写真館の印もあった。

「門司か」

「九州?」

「今の北九州市だ」

「どうして東京の人が?」

「戦後なら、人の移動はいくらでも考えられる」

蒼井は写真館の名前を調べた。

すでに店はない。

しかし古い地域資料に、同名の写真館が載っていた。

経営者の子孫が今も近くに住んでいる可能性があった。

「行くの?」

チーコが聞いた。

「いきなり九州へは行かない」

「残念」

「何が残念なんだ」

「ロケとして面白そう」

「取材費を考えろ」

蒼井は電話とメールで調査を続けた。

数日後、写真館を営んでいた家の孫と連絡が取れた。

古いネガはほとんど処分されていた。

ただし、祖父が残した撮影台帳が一部残っているという。

昭和二十三年。

六月十二日。

港湾労働者集合写真。

依頼者名。

その横に、参加者の名字が数名記載されていた。

岡崎。

「同じ名字」

チーコが言う。

「本人とは限らない」

「でも可能性は上がった」

「そうだな」

さらに調べると、その岡崎という男性は「隆一」と呼ばれていたという証言が、古い手紙に残っていた。

岡崎隆一。

同姓同名。

「生きてた」

チーコが小声で言った。

蒼井はすぐ答えなかった。

「少なくとも昭和二十三年には、その名前の人物が門司にいた可能性が高い」

「じゃあ、どうして帰らなかったの」

それが最大の謎だった。