飯倉熊野神社・長編ストーリー【チーコと蒼井の現代編】

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第七章 必ず帰る

六月末。

夏越の時期。

岡崎はもう一度、飯倉熊野神社を訪れた。

チーコと蒼井も同行した。

古い牛王神符を返納するためだった。

「寂しくないですか」

チーコが聞く。

「少しな」

岡崎は札の裏を見る。

《必ず帰る》

「でも、父は帰ってきたと思うことにした」

「どういう意味ですか」

「俺が父のことを、ようやくちゃんと知ったからだ」

岡崎は笑った。

「人が帰るって、玄関を開けて入ってくることだけじゃないんだろう」

チーコは何も言わなかった。

以前、十番稲荷神社でも似たことを考えた。

帰る場所。

帰る人。

帰れない人。

今回はさらに、その場所まで導くものがあった。

八咫烏。

約束。

写真。

名前。

そして、誰かが残した記憶。

岡崎は新しい熊野牛王神符を受けた。

「また受けるんですか」

「今度は自分用だ」

「何て書くんです?」

老人は笑う。

「秘密だ」

「気になる」

「チーコ」

蒼井が止める。

「分かってる。聞かない」

岡崎が帰ったあと、二人は鳥居の下に立った。

「終わったね」

「ああ」

「いい話だった」

「事実と推測は分けて記事にする」

「分かってる」

「征一さんが兄の名を使った理由も断定しない」

「分かってるって」

蒼井はチーコを見る。

「念のためだ」

「信用ないなあ」

「物語にすると、チーコはすぐ全部つなげる」

「つながったほうがきれいじゃない」

「現実はきれいにつながらない」

「でも」

チーコは八咫烏を見上げた。

「つながらないものを、写真とか文章とか映像で、少しだけつなげるのが私たちの仕事なのかも」

蒼井は黙った。

「どう?」

「悪くない」

「それだけ?」

「かなりいい」

チーコは満足そうに笑った。