第四章 鯛を供える人
飯倉熊野神社へ追加取材に行った日。
チーコは恵比寿太田稲荷社の前に立っていた。
「太田道灌は、勝って帰って鯛を供えたんだよね」
「そう伝わっている」
「帰れたから、お礼ができた」
「ああ」
「岡崎さんのお父さんは、生きて帰っていたのに家へ帰らなかった」
「まだ断定はできない」
「分かってる」
チーコは小さな社を見つめた。
「帰るって、難しいね」
蒼井が隣へ来る。
「場所が分かっていても帰れないことはある」
「どうして?」
「恥、罪悪感、恐怖。自分がいない間に何かが変わってしまったと思えば、戻るのが怖くなることもある」
「家族なら待ってるのに」
「本人には分からない」
「蒼井なら帰る?」
「何から」
「もし大失敗して、何年も連絡しなくなって」
「まず何年も連絡しない状態にしない」
「例え話」
蒼井は少し考えた。
「帰ると思う」
「どうして」
「帰れと言う人がいるなら」
チーコは何となく聞いた。
「私が言ったら?」
蒼井がこちらを見る。
「帰る」
答えが早すぎた。
チーコは目を逸らす。
「そう」
「何だ、その反応は」
「もっと考えるかと思った」
「考える必要がない」
「ふうん」
それ以上聞くと、自分のほうが困りそうだった。