第四章 セーラームーンの地図
一方。
近藤君とまゆみさんは、境内で一人の外国人女性に声をかけられていた。
「Excuse me」
女性はスマートフォンに表示されたアニメ画像と、実際の境内を交互に見ている。
まゆみさんが英語で簡単に応対した。
女性は台湾から来た旅行者だった。
母娘二人。
母親が『美少女戦士セーラームーン』のファン。
娘は母親に付き添っている。
「お母さん、レイちゃん好き」
娘が日本語で笑う。
母親は照れたように手を振った。
近藤君が、
「火川神社のモデルを見に?」
と聞く。
二人はうなずいた。
娘は、
「でも、母は神社より狛犬をいっぱい撮ってる」
と言った。
向き合う狛犬。
母親は何度も角度を変えて撮影している。
「どうして狛犬を?」
まゆみさんが聞く。
娘が通訳する。
母親は昔、夫と日本旅行をする約束をしていた。
だが夫は病気で亡くなった。
今回、娘が「一緒に行こう」と誘った。
「お父さんもセーラームーン好きだったんですか?」
近藤君が聞く。
娘が笑った。
「全然」
母親も笑う。
「じゃあ、なぜここ?」
母親は狛犬を指した。
娘が通訳した。
「父と母、よく喧嘩しました。でも、ずっと向き合っていました」
まゆみさんはその言葉をメモした。
喧嘩しても、向き合う。
視線を外さない。
そのとき、近藤君はふと思った。
「向き合うって、仲良しって意味だけじゃないんですね」
まゆみさんが見る。
「そうですね。嫌なことも、相手も、自分も。ちゃんと見るってことかも」
「今日のテーマに使えそう」
「蒼井さんに報告ですね」