第十章 祭りの日
数週間後。
麻布氷川神社の例大祭。
六人は再び境内へ集まった。
今度は取材ではなく、祭りの本番。
いや。
もちろん取材なのだが。
チーコは朝から完全に祭りのテンションだった。
「人多い!」
「機材に気をつけろ」
蒼井。
「分かってる」
「人を撮るときは許可」
「分かってる」
「動線塞ぐな」
「分かってるって!」
佐久間とヤヨイは祭礼の進行確認。
近藤君とまゆみさんは町会の人へ取材。
大神輿が出る。
担ぎ手の声。
法被。
汗。
揺れる神輿。
街の中を進む。
チーコはシャッターを切り続けた。
担ぐ手。
子ども。
見守る老人。
スマートフォンを掲げる外国人。
狛犬の横を通る人。
蒼井は映像で追う。
「チーコ、左!」
「見えてる!」
「神輿来る!」
チーコが素早く下がる。
蒼井が肩を掴んで引いた。
「危ない」
「ありがとう」
「夢中になりすぎ」
「今の撮れた?」
「俺が撮った」
「じゃあ大丈夫」
「反省しろ」
祭りは続く。
その途中。
一人の高齢男性が大神輿を見ながら泣いていた。
まゆみさんが気づく。
「大丈夫ですか」
男性は笑った。
「大丈夫。親父に見せたかっただけ」
「お父様?」
「昔、これを担いでた」
男性の父親は、昭和初期の祭礼を知っていた。
戦後、大神輿が出なくなったことをずっと残念がっていた。
「復活を見る前に亡くなった」
男性は言った。
「でも、俺が見たからいい」
近藤君が聞く。
「どうして?」
「親父の話を知ってる人間が見れば、それで一緒に見たようなもんだ」
まゆみさんは、その言葉をすぐにメモした。
その日の夕方。
六人が合流したとき、まゆみさんはその話を伝えた。
チーコが言う。
「清一君と同じ」
「どういう意味?」
「本人が戻らなくても、話や記憶が戻ることはある」
佐久間が慎重に言う。
「清一さん本人の意図とは分ける必要があります」
「分かってる」
「でも物語のテーマとしては成立する」
蒼井が言った。
「祭りは、人を戻すんじゃなくて、記憶を戻すことがある」
ヤヨイが笑う。
「それ、ナレーション候補ですね」