第九章 六人が見た麻布氷川
夕方。
六人は一度取材を止め、境内でそれぞれのメモを共有した。
チーコ
「私はやっぱり、向き合う狛犬と少年の写真」
「理由は?」
蒼井。
「少年がカメラを見てるから。未来の誰かに見つけてほしかったみたいに見える」
佐久間がすぐ、
「それは印象です」
と言う。
「分かってる。だから写真家の取材メモなの」
ヤヨイが笑った。
蒼井
「映像は、一本松から現在地まで歩く導入。そこから大神輿、戦災、空白、復興」
「清一君は?」
「中心にはしすぎない。記録に残らなかった町の人の象徴として扱う」
チーコがうなずく。
佐久間
「史料上、確実なのは大神輿の巡行が長期間途絶えたこと、令和に修復・復興したこと。石川清一については、写真、地域誌、地方紙で同一人物の可能性が高い。ただし全部の経歴はつながっていません」
ヤヨイ
「私は『名前が残らない人』がテーマです。祭りって、有名な人だけで続くわけじゃない。準備する人、子ども、家族、見ている人。そういう人たちが何十年も重なって続く」
佐久間が少し見た。
「いいですね」
「珍しく素直」
「事実なので」
今度はチーコと蒼井が同時に笑った。
近藤君
「僕は、現代の参拝者ですね。セーラームーンの聖地として来る人、港七福神で来る人、地元の人。入口は違うけど同じ神社に集まっている」
まゆみさん
「私は『向き合う』です。狛犬だけじゃなくて、過去と今、神社とアニメ、地元と観光客。違うものが向き合っても、どちらかを消す必要はない」
全員が黙った。
チーコが言う。
「まゆみさん、それタイトルに使える」
「長編タイトル?」
蒼井が聞く。
「『九十年目の神輿』も捨てがたい」
ヤヨイが言った。
「じゃあ副題?」
近藤君。
「向き合う町とか」
佐久間。
「まず記事を完成させてからタイトルを決めましょう」
「佐久間君だけ現実」
チーコが笑った。