第八章 帰れなかった少年
ケロが戸籍や個人情報に踏み込まない範囲で、公開資料を追った。
数時間後。
一本の古新聞記事が見つかった。
戦後の地方紙。
昭和二十八年。
神奈川県。
小さな祭りの記事。
地域の青年たちが戦後初めて神輿を復活させたという内容。
その中に、
石川清一
の名前。
年齢三十二歳。
麻布出身。
「生きてた」
チーコが言う。
記事には、
《少年時代、東京麻布の祭礼で神輿に憧れた》
とあった。
さらに、
《戦後、故郷の祭礼が途絶えていると知り、移住先で神輿復興に尽力した》
と記されていた。
「麻布に帰らなかったんだ」
ヤヨイが言う。
「少なくとも、この記事時点では」
佐久間が答える。
「でも、神輿は担いだ」
チーコ。
蒼井が記事を読む。
「自分の故郷じゃない場所でな」
まゆみさんが言った。
「約束は、場所が変わっても果たせるのかな」
近藤君が返す。
「『麻布の大神輿を担ぐ』って約束なら、果たしてない」
「でも『大きくなったら神輿を担ぐ』なら、果たしてる」
ヤヨイが言う。
「言葉って、残し方で意味が変わりますね」
佐久間は記事の引用元を確認している。
蒼井が言った。
「ここで断定しない」
チーコが顔を見る。
「分かってる」
「清一が麻布へ戻らなかった理由も分からない」
「でも、神輿が好きだったのは分かる」
「ああ」
「それで十分じゃない?」
蒼井は少し考えた。
「物語ならな」
「Story_Researchなら?」
「確認できるところまで」
「ちゃんと分ける」
チーコは笑った。
「私も成長したでしょ」
「少し」
「少し?」