第五章 チーコが撮った少年
境内の撮影をしていたチーコは、神輿庫の近くで古写真を見せてもらっていた。
「この神輿が九十年ぶりに?」
「ああ」
蒼井が答える。
「長く巡行が途絶えて、修復されて復活した」
「九十年かあ」
チーコは写真を一枚ずつ見ていた。
突然、手が止まる。
「この子」
蒼井が近づく。
「何だ」
「カメラ見てる」
佐久間とヤヨイが見ていた少年と同じ写真だった。
「偶然だろう」
「でも、目が合う感じがする」
「写真だからな」
「そういう意味じゃなくて」
チーコは少年の顔を拡大した。
「この子、神輿を見てない」
「撮影者が気になったんじゃないか」
「かもしれない」
「物語にしたい顔になってるぞ」
「何、その顔」
「十番稲荷でも飯倉熊野でも見た」
チーコは写真を見ながら言った。
「この子、神輿担げなかったんだろうな」
「年齢的にはな」
「いつか担ぎたいって思ったかな」
「分からない」
「蒼井はすぐ分からないって言う」
「分からないものは分からない」
「そこが好き」
蒼井が止まった。
チーコも止まった。
「……何?」
「今、何て言った」
「そこが、いいって言ったの!」
「違った気が」
「聞き間違い!」
チーコは慌てて別の写真へ移った。
蒼井は何も言わなかった。
ただ少し笑っている。
「笑わないで」
「笑ってない」
「笑ってる」
そのときスマートフォンが鳴った。
佐久間からだった。
《同じ少年を別写真で確認しました》
蒼井の表情が仕事の顔へ戻る。
「行くぞ」
「逃げた」
「何から」
「別に」
チーコはカメラを抱えてついていった。