~九十年目の神輿~
第一章 六人、一本松に集合
「なんで神社の取材なのに、神社じゃないところ集合なの?」
午前九時十二分。
一本松坂の途中。
チーコはカメラバッグを肩へ掛け直しながら、少し不満そうに言った。
「今日の企画構成」
蒼井が答える。
「麻布氷川神社が、もともと一本松付近にあったと伝わっている。だから昔の場所から今の神社へ歩く」
「それは分かってるけど」
「じゃあ何が不満なんだ」
「坂」
「そこか」
チーコは一本松坂を見上げた。
朝から気温は高い。
九月。
暦の上では秋なのに、東京にはまだ夏の名残がたっぷり残っている。
「重い」
「何が?」
「カメラバッグ」
蒼井は無言で手を出した。
「え?」
「貸せ」
「いいの?」
「三脚と映像機材に一個増えても大差ない」
「ありがとう」
チーコは素直に渡した。
その様子を少し下から見ていたヤヨイが、丸眼鏡の奥で笑う。
「自然ですねえ」
「何が?」
チーコが聞く。
「いえ、別に」
ヤヨイの隣では佐久間がスマートフォンで古地図を確認していた。
「江戸期の麻布氷川神社は、現在地へ遷座した後なので、今日見るなら一本松の創建伝承と現在地の比較ですね」
「佐久間君、朝から固い」
チーコが言う。
「調査担当なので」
「でも正しいです」
ヤヨイがフォローする。
さらに少し遅れて、近藤君とまゆみさんが坂を上ってきた。
「おはようございます」
近藤君は紙袋を持っている。
チーコが即座に反応した。
「なにそれ」
「朝ごはん」
「取材前?」
「僕じゃなくて、まゆみさんが」
「近藤君が『何か食べてから行きましょう』って言ったんですよ」
まゆみさんが笑う。
「二人とも食べたの?」
「はい」
「ずるい」
蒼井が横から言う。
「チーコも食べてきただろ」
「それとこれとは別」
全員のスマートフォンが同時に震えた。
グループチャット。
送り主はケロ。
《おはようございます。現地組六名、全員そろっていますか》
チーコが返信する。
《ケロだけいません》
すぐ返る。
《私は本部です》
《便利な言葉》
《バックオフィスです》
続いて二通目。
《本日の企画テーマは「麻布氷川神社―向き合う勇気と、九十年ぶりに戻った大神輿」です》
蒼井が画面を見る。
「やっぱり神輿が軸か」
《ただし、祭礼の歴史紹介だけでは弱いです。六人それぞれで、物語の種を拾ってください》
さらに。
《昼食費は各自負担》
チーコが即座に打つ。
《それ必要?》
《非常に》
「いつものやつ」
近藤君が笑った。
六人は一本松から歩き出した。
かつて神社があったと伝わる場所から。
現在の麻布氷川神社へ。
誰もまだ知らなかった。
その日の取材で、九十年前に止まった一人の少年の時間と出会うことを。